アバウト・ア・ボーイ
ABOUT A BOY



監修 亀山太一
翻訳・解説 井上英俊/亀山太一/久米和代/柴田純子
英文構成 株式会社スクリーンプレイ
編集 椎原寛基/WILLIAM NIXON
ISBN-4-89407-343-9
本体価格=1,200円(税別)
2003年(平成15年)9月 発行予定

映画公式サイト

亡き父の印税でお気楽の暮らす38歳の独身男と、情緒不安定な母親を持つ12歳の悩み多き少年。世代を超えた2人の友情と成長を描いた作品。

書 籍 紹 介
 
映 画 紹 介
書 名 スクリーンプレイ
「ABOUT A BOY
 アバウト・ア・ボーイ」
製 作 2002年
監 修 亀山 太一 会 社 UNIVERSAL PICTUERS
仕 様 A5版 160ページ 監 督 CHRIS WEITZ
PAUL WEITZ
発行日 2003年9月3日 脚 本 PETER HEDGES
出版社 株式会社 スクリーンプレイ 出 演
HUGH GRANT
定 価 本体1,200円(税別) TONI COLLETTE
ISBN 4-89407-343-9 RACHEL WEISZ


 

■この映画のストーリー

 『アバウト・ア・ボーイ』は、イギリスの作家ニック・ホーンビィの小説を映画化したものである。この映画が公開された2002年の時点では、ホーンビィの作品はまだ4作しかない。にもかかわらず、なんとそのうちの3作までが映画化されている。第1作『ぼくのプレミア・ライフ』(原題は "Fever Pitch")はコリン・ファース主演で1997年に、2作目の『ハイ・フィデリティ』(High Fidelity)はジョン・キューザック主演で2000年に公開されている。そしてこの『アバウト・ア・ボーイ』は、1998年に発表された彼の3作目の同名の小説をもとにしている。ホーンビィという作家の人気と、その作品の娯楽性の高さがうかがえる。
 映画は、38歳で独身の主人公ウィル・フリーマン(ヒュー・グラント)のモノローグで始まる。親の遺産(正確に言えば父親の作曲した歌の印税)で何不自由なく暮らす彼は、働く必要もなく、誰かに頼って生きることもない。メモ"No man is an island."(人は孤島ではない)というジョン・ダンの詩(ウィルはこれをジョン・ボン・ジョヴィの詩だと思い込んでいる)を逆引用し、「人はみな孤島だ」というのが主義の男だ。
 もう一人、この映画でモノローグを語るのが、マーカス・ブリュワーという12歳の少年(ニコラス・ホルト)だ。元ヒッピーの菜食主義者で自殺癖のある母親フィオナ(トニ・コレット)と二人暮らし。学校でもいじめられているが、本人は母親に心配をかけまいとして健気にがんばっている。
 この、年齢も境遇もまったく違う二人が出会ったことから、この「物語」は始まる。そしてその物語のテーマは「成長」である。
 年齢的にはすでに中年の入り口にさしかかっているウィルだが、その精神はまったく子供だ。何事にも自分中心で、恋愛においても次々と相手を乗り換え、別れ話のたびに「自己チュー」だとののしられつつも、さっさと次の相手を探している。そしてたどり着いたのが「シングル・マザー」という究極の(?)選択。「熱のこもったセックス」「罪の意識のない別れ」「ちょっと寝て、すぐに別れてくれる」そんな理想の女性を求めて、彼はシングル・ペアレントの会であるSPATに潜り込む。そのために彼はネッドという架空の子供を作り上げ、シングル・ファーザーを装う。嘘をつくことで、ものごとを自分の都合のいいように運ぶというその発想は、まさに子供と同じだ。
 一方、マーカスは、学校ではいじめられ、家に帰れば母親の異常な行動に不安を感じ、何とかしようと思いつつもどうにもならない不安定な日常に揺れている。そこに現れたのがウィルだ。初対面での印象は、母親の友人スージー(ビクトリア・スマーフィット)によこしまな感情を抱いている中年オヤジ(そのことをちゃんと見抜いているところがマーカスのマーカスらしいところ)。だがマーカスは、母親の自殺未遂事件をきっかけに、一見お金持ちそうなウィルと自分の母親が結婚すれば、母親も自分も救われるのではないかと希望を抱く。そんな単純な発想をするマーカスも、まだ子供である。
 マーカスがウィルのアパートに出入りするようになるのも、初めはマーカスの計略からだったが、次第に二人はお互いの「良さ」と「欠点」を知る。マーカスがどれくらいの期間ウィルのアパートに通ったのか、正確にはわからないが、マーカスがドアベルを押す前にウィルがドアを開けるようになり、二人の様子がどんどんうち解けていくところを見ると、それなりに足繁く通ったことがわかる。
 ひと足先に「成長」するのはマーカスだ。レストランでのウィルとフィオナの口論では、母親の言うことが常に正しいわけではないということに気付く。クリスマスパーティーでは母親と理にかなった議論をして自分の考えを通すことに初めて成功する。さらに学校では、パンク・ガールのエリー(ナット・ガスティアン・ティナ)と仲良くなり、いじめっ子たちからも一目置かれるようになる。ちなみに原作では、このエリーがマーカスの成長にもっと大きな役目を果たすのだが、映画ではエリーはあまり出てこない。ただ、この映画のエンディング、ウィルのアパートでのクリスマスパーティーのシーンを見れば、マーカスとエリーの間に原作に描かれているエピソードのいくつかは実際にあったと考えてもおかしくはないだろう(どんなエピソードかは原作を お読みいただきたい)。
 ウィルの「成長」は、レイチェルというシングル・マザーとの出会いから始まる。それまでの遊び的な恋愛とは違い、彼にとっての初めての「恋」だ。だがレイチェルは、ウィルが「空っぽ」な人間だということを見抜く。ウィルにとっての初めての「失恋」。ウィルは、それまでの自由気ままな人生がいかに無意味なものだったかを初めて知る。そして、ウィルにとって唯一の「意味のあるもの」、それがマーカスだということに気付く。マーカスと一緒に校内コンサートのステージに立ち、それまでのクールな生活からは想像もしなかったような恥ずかしい思いをするウィル。そうすることでウィルはマーカスを「社会的自殺」から救う。客席から飛んできたリンゴが頭に当たり、観客にも、マーカスにさえも笑われるウィルだが、それはウィル自身が「脱皮」した瞬間のようにも見える。
 「成長」したウィルは、あいかわらず「人間はみな孤島」という主義だが、「孤島でも海面下ではみんなつながっている」と考えるようになった。一方、マーカスはといえば、以前のあのおどおどした態度はどこへやら、エリーにさえも大きな態度ができるようになってしまう。ウィルが、「怪物を作ってしまった」と言うのもうなず
ける。だが同時にウィルは、「こいつが僕を作ったのかも」とも言う。このセリフは、ウィルとマーカスが、お互いの存在があったからこそ「成長」できたということの象徴でもある。
 だがあいかわらず、ウィルも、マーカスまでも、メモ"No man is an island." がジョン・ボン・ジョヴィの詩だと思っているところだけは、まったく成長していない。
亀山 太一

■この映画の英語について

 ロンドンを舞台にした『アバウト・ア・ボーイ』で使われる英語は、いわゆる「イギリス英語」である。『アバウト・ア・ボーイ』のほかにも、最近、『ハリーポッターと秘密の部屋』(2002)や『スナッチ』(2000)、『ブリジット・ジョーンズの日記』(2001)など、イギリスを舞台にした映画が元気だ。こうした映画を通して接する機会がぐんと増えた「イギリス英語」、知っておくとなかなか面白い。
 まず、『アバウト・ア・ボーイ』を通して頻繁に耳にするのが、bloody だ。これは、イギリス英語で最もよく使われる強意語の一つで、形容詞としても副詞としても使われる。例えば、”It’s because you threw a bloody great loaf of bread at a duck’s head and killed it, basically.” (君がばかでかいパンの固まりをアヒルの頭に投げて殺しちゃったからだ、もとはと言えばね)という具合だ。bloodyhell もよく聞くフレーズだが、こちらは、日本語で言えばさしずめ「あら、まあ」、「何てことだ」というところ。以前はタブー視されていたこともある bloody だが、最近では女性もロイヤルファミリーも口にするほど一般的な言葉になってきたようだ。  brilliant も、この映画の中でよく聞く単語の一つだ。米語の great に相当するこの褒め言葉、lovely、smashing、splendid などと並んでイギリス英語でよく使われる。この映画でも “Ah! Brilliant!” (わあ! すごいや!)、”Will, you are brilliant.” (ウィル、あなたってすばらしいわ)のように使われている。
 また、ウィルがよく口にする言葉に mate がある。これは、米語の pal や buddy などと同じく、「おい、やあ、君、相棒、兄貴」などという感覚の、おもに男性間の親しい間柄での呼びかけだが、物を頼む時など、他人に対しても使われる。 “I think we’ve beat the rap there, mate.” (おとがめなしみたいだな、おい)、
“Um, steak sandwich, please, mate.” (じゃあ、ステーキサンドイッチをもらおうか)などがその例である。
 「立ち去る」を意味する bugger off も、ウィルのセリフにしばしば登場するイギリス英語の一つだ。これは、メBugger off.モ (消えろ)のように命令文の形で使われることが多い表現である。
 更に、文の形に着目してみると、「付加疑問文」が多いのに気付く。これもイギリス英語の特徴だ。基本的に「・・・だよね」「・・・でしょう」と同意・確認を求める表現だが、強意を表したり間合いを取るためであったりもする。またコメントや話題に困った時にも使える便利な表現でもある。この映画では、”You don’t have a kid, do you?” (子供いないんでしょ?)、”I said I did it without noticing, didn’t I?” (無意識にやっちゃうって言ったじゃない)、”Yeah, she’s um... delightful, isn’t she?” (そう、この子、うーん・・・かわいい、よね?)などのセリフに見られる。
 まだまだあるこうした語彙表現や言い回し、更には発音やアクセントなども含め、「イギリス英語」に注目してこの映画を観ると、ウィルやマーカスがぐっと身近に感じられるはずだ。
久米 和代

■目次

1. Two Boys ふたりの男の子 ……………… 8
2. S.P.A.T SPAT ……………… 26
3. Emergency

緊急事態

……………… 38
4. Cool Uncle Will クールなウィルおじさん ……………… 56
5. New Trainers 新品のシューズ ……………… 78
6. Christmas クリスマス ……………… 92
7. Rachel レイチェル ……………… 102
8. Honesty 誠実 ……………… 120
9. Something for Mum ママのために ……………… 132
10. No Man is an Island 人は孤独ではない ……………… 150

■コラム

結婚しない人々:イギリスの家庭事情 ……………… 36
シングルマザー、手をとろう! ……………… 54
ヒュー・グラント/美しき貴公子から、愛すべきダメ男へ ……………… 76

■リスニング難易度

評価項目 易しい → 難しい
・会話スピード
1 2 3 4 5
・発音の明瞭さ
1 2 3 4 5
・アメリカ訛
1 2 3 4 5
・外国訛
1 2 3 4 5
・語彙
1 2 3 4 5
・専門用語
1 2 3 4 5
・ジョーク
1 2 3 4 5
・スラング
1 2 3 4 5
・文法
1 2 3 4 5
合 計 22点

( 16以下 = Beginner, 17-24 = Intermediate, 25-34 = Advanced, 35以上 = Professional )