■この映画のストーリー
|
ボルティモアで小さなパートタイマー斡旋所を経営するデーヴは、自らも機会を見つけては大統領の物真似をして気楽で陽気な人生を送る目下独身の心優しい中年男性である。それというのもこの男、時のアメリカ合衆国第44代大統領ウイリアム・ミッチェルに瓜二つなのだ。一方、本物の大統領ミッチェルはというと、側近たちに密かにそっくりさんを探させては、その人物を公の場に出させ、浮いた時間を可愛い子ちゃんとの密会に使うというイイ加減極まりない男。そんなことからいつものように雲隠れする大統領の身代わりとして、一回限りの条件でデーヴの所に仕事の依頼が舞い込んできた。だが、こともあろうにこの大統領、ホテルの一室で若い美人秘書との情事の最中に、脳卒中を起こして意識不明の重体に、例え回復したとしても一生植物人間という悲惨な状態に陥ってしまったから側近たちは大慌て。大統領の危篤を国民に正直に伝えるという方法もあったが、下心のある大統領補佐官アレクザンダーはデーヴに契約延長を申し出る。国家、国民の為という言葉で説得されて不承不承引き受けたデーヴではあったが、アレクザンダーと報道官リードの指導のもとに一夜づけで複雑な政治機構や大統領業務をマスターすると、あっという間に本物の大統領を遥かに凌ぐ活躍をするようになっていく。
大統領の突然の大変貌に国民は惜しみない拍手喝采を送り、ジャーナリズムは驚嘆の声を上げ、テレビの討論番組は変身を遂げた大統領の話題一色となってしまった。そんな中、デーヴを自由に操り、政府を我が物にしようと企んでいたアレクザンダーは、正義感に溢れた大統領として独り立ちしていくデーヴに脅威を抱くようになり、それを食い止めるべく行動に出る。ミッチェル大統領その人のこれまでの数々の不正を暴き立てたのである。詰めかけた報道陣とテレビの画面を通して国民の目が注がれる中、デーヴは議会の壇上へと上がっていく.....
『アニマルハウス』『ゴーストバスターズ』『ツインズ』といったユーモアに溢れた作品を撮らせたらその右に出る者なし、と言われるアイヴァン・ライトマンがプロデュース兼監督を務め、『ソフィーの選択』『ワンダとダイヤと優しい奴ら』で全く隙のない演技を披露したケヴィン・クラインと、『エイリアン』シリ−ズや『ゴーストバスターズ』『ワーキング・ガール』などで幅広い、そして何よりも迫力のある演技を発揮して映画ファンを魅了しているシガーニー・ウィーヴァーの二大実力派俳優を配して世に送られたこの作品は、単に政治の世界を揶揄したコメディーではない。誰でも大統領になれうるアメリカという国で偶然から大統領になった人間のサクセス・ストーリーを面白可笑しく語ったものでもない。デーヴがアレクザンダーの腹黒い所業を告発した後で、自らの与かり知らぬミッチェル大統領の不正を詫びながら「私は自分たちの生活を少しでも良くするために私に給料を払ってくれている2億5千万の人々がいることを忘れていた。しかも私は自分の務めを果たさなかった...
私は自分の信じる事のために進んで全てを投げうつべきなのです... もしそうでなければ私はこの地位に就いているべきではない」と声を震わせ語る言葉が明白に伝えているように、責任ある地位についた人間のあるべき姿を描いたものだ。多くの国民が政治に対して抱いている期待や夢、一国のリーダーたる大統領に望む正義と思いやり、そして何よりもそうした人間に必要な人格的高潔さを、デーヴという平凡な一市民の変貌を通して伝えた、まさに感動的名作の一つと言うことが出来るだろう。
|
曽根田 憲三 (相模女子大学教授) |
|
■この映画の英語について
|
この映画はファンタジーである。大統領のそっくりさんが執務をとらされ、やがてその仕事の面白さに目覚めるものの、スキャンダルで一市民に戻る、という筋立ての中では「いかにばれないか」が重要になり、細部にまでリアリティーが要求される。「いかに大統領らしく振る舞うか」が特に問題になるのは公の場においてであり、スピーチでそれは顕著になる。よって大統領のスピーチを分析すべくデーブの完全雇用策のスピーチを分析してみよう。He
(Bob) thinks this country's fine...I just don't feel that way. 前半の文は修辞疑問と同じ働きをもたせ、「彼は〜らしい(他にそんな人がいるだろうか)。私は〜」と対比させる事によりまず「私」を強調する。次に
Because, hey, things aren't fine. で日本人が軽視しがちな間投詞 hey を挿入することにより親近感をいだかせ、直後に
We got... と we の使用で「私」と「民衆」を一体化させる。そして responsibility という語で感情を煽りながら又
Have you ever seen...?「〜ありますか、私はもちろんあります」と再度修辞疑問を使用した上で respect
という語を用いながら誇張ぎみに論を進める。最後部では one person..., another person and another
person, ... と繰り返しにより説得力を高めておき、So, let's get to work. にはキャッチフレーズ的な効果ももたせている。全体的には平易な語が使用されていて理解しやすく、ともすれば一文一文が政治家のスピーチのパロディのようにも思われるのに語り終わった時にはアメリカの楽天主義を再度信頼させるほどの感動を与えている、というようにレトリックの宝庫であり、音調、リズム、イントネーションと共に我々がスピーチをする際の参考とするに足るものである。公的な場での英語とは違い、私的な場で政治家たちの使用する英語には
I don't give a shit, terrific, Jesus, yutz, Go to hell など four letter
words もスラングもあり、表の顔と裏の顔との落差も楽しめる。裏といえばミッチェル大統領のスピーチをアランが代筆したと言う (I
wrote it) が、実際、大統領のスピーチは大統領に委託された者により代筆されるのが現在では普通である。政治に関連した用語も豊富だし、実在の政治家、テレビのニュースキャスター、レポーターなどもニュース番組の中で登場しており、彼らの英語の速度はかなり早いのでニュース英語のよい聞き取り訓練にもなる。
kill のような平易な単語を「廃案にする」「観衆を魅了する」「政治的生命を断つ」「暗殺をする」のような意味で用いたり、fine
などが政治家特有の婉曲表現に見られたり、conspiracy という語で JFK を彷彿させて笑わせたりするのも特徴として挙げられる。
最後のシーンでデーヴの選挙を手伝っている女性ローラが Kovic を Kobic と発音し矯正される。VとBの発音が困難なのは何も我々ばかりではないのである。
|
及川 学 (慶応義塾大学講師) |
|
■目次
|
1. |
コヴィックの職業斡旋所 |
Kovic's Temps |
……………… |
7 |
2. |
ミッチェル大統領 |
Presidet Mitchell |
……………… |
17 |
3. |
契約延長 |
An Extension |
……………… |
25 |
4. |
大統領夫人 |
The First Lady |
……………… |
37 |
5. |
腕相撲 |
Indian-Wrestling |
……………… |
48 |
6. |
救いの家 |
The Helping Hand Shelter |
……………… |
57 |
7. |
予算編成 |
Juggling the Budget |
……………… |
71 |
8. |
ソックリさん |
Look-Alikes |
……………… |
82 |
9. |
ナンス副大統領 |
Vice-President Nance |
……………… |
94 |
10. |
ジグザグ人生 |
Switchback |
……………… |
106 |
|
■コラム
|
ホワイトハウスの英語 |
……………… |
16 |
議会の英語 |
……………… |
36 |
ケヴィン・クライン |
……………… |
47 |
大統領への道 |
……………… |
56 |
アメリカ合衆国大統領総覧 |
……………… |
119 |
|
■リスニング難易度
|
評価項目
| 易しい → 難しい
|
・会話スピード
|
|
・発音の明瞭さ
|
|
・アメリカ訛
|
|
・外国訛
|
|
・語彙
|
|
・専門用語
|
|
・ジョーク
|
|
・スラング
|
|
・文法
|
|
合 計 |
11点 |
( 16以下 = Beginner, 17-24 = Intermediate, 25-34 =
Advanced, 35以上 = Professional )
|