■この映画のストーリー
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『ダイ・ハード3』(Die Hard With a Vengeance, 1995)は最近のアメリカ映画お得意のゲーム感覚で爆弾をもてあそぶ犯人とそれを追う側の壮絶な戦いを描いたハイパーテンス・アクションだ。買い物客で賑う5番街のデパートが何者かによって突然爆破され、慌てふためくニューヨーク市警本部をあざ笑うかのような1本の不気味な電話で物語が始まるのである。この映画の主人公は言わずと知れた、世界で最も不幸な刑事を自認するブルース・ウィリス演じるジョン・マクレーン。2作目で妻子との生活を選び、ロス市警に転属していたはずの彼だったが、この作品では古巣のニューヨークに舞い戻っている。とはいえ、今や停職処分の身に加え、妻とも1年間にわたって絶交状態、お陰で生活は荒れに荒れ、二日酔いから来る激しい頭痛に悩まされ、アスピリンを探し出しては口に放り込む毎日なのだ。
そんなダラシナイ彼の前に突然、強敵が現れた。その男は自らをサイモンと名乗り、マクレーンを直々に指名して、彼にゲームの相手をしろと要求してくる。1人がサイモンになり指令を出す、指令を出された相手はサイモンの言う通りに動かねば負けという、Simon
Says と呼ばれる英米の子供の遊びだ。もしその要求に応じなければ新たに公共の場を爆破すると言うのである。しかも彼の脅しが本気であることは、某研究所より莫大な液体爆弾が盗まれていることからも明らかなのだ。まさにニューヨーク全市を人質に取る正体不明の知能犯を演ずるのは『戦慄の絆』(Dead
Ringers, 1988)でニューヨーク映画批評家協会賞主演男優賞、『運命の逆転』(Reversal of Fortune,
1990)ではアカデミー主演男優賞に輝いたイギリスの名優ジェレミー・アイアンズ、ウィリスにとって不足はない。それどころか、彼が全市を恐怖で震え上がらせ、警察ばかりかFBIやCIAをキリキリ舞いさせるとき、ウィリスの方が霞んで見えるほどなのだ。それほど彼は沈着冷静、スゴミのある悪役像を見事に作り上げているといえるだろう。巷に溢れた、無秩序に人を殺める冷酷無残な殺し屋というわけではなく、無駄な殺しを好まない、犯罪をゲームとして楽しむユトリを持った数ランク上の人物なのだ。しかも警察の動きを1つ残らず読み取って、その上をいく知能、知略に長けた男でもある。こんな犯人であればこそ、たとえ戦いの場が隅から隅まで知り尽くしたホームグラウンドであるとはいえ、相手をさせられるマクレーンにとってはいい迷惑、今度こそは絶体絶命のピンチである。
しかも姿が見えぬこの不気味な男からマクレーンは裸になって I Hate Niggers という看板を付け、138th Street
と Amsterdam Avenue の角に立たされるのだからたまったものではない。ちなみに、ここは黒人街ハーレムのど真ん中、「多分4分で殺されるだろう」とマクレーン自ら語っているように世界に名だたる危険ゾーンだ。ましてや複雑な人種問題を抱えたアメリカであってみれば、こうした看板は命取り。だが、1988年にロサンゼルスのナカトミ・ビル、1990年にはダラス空港での壮絶な戦いを生きのびてきたヒーローを新進気鋭の脚本家ジョナサン・ヘンスレーがそう簡単に消し去るはずはない。案にたがわず、ストリートギャングに取り囲まれて危機一髪というところを、『パルプ・フィクション』(Pulp
Fiction, 1994)で神に目覚める殺し屋を熱演したサミュエル・L・ジャクソン扮する黒人の家電修理屋ゼウスに助けられ、カスリ傷一つで署に逃げ戻るというのも十分に納得のいく筋書きである。
それにしても、なぜマクレーン1人がいつもこうまで苦しまねばならないのだろう。数多くの刑事がいる中で、なぜ彼1人が狙われねばならないのか。精神分析医が語るようにマクレーン個人に強い恨みを抱いた人間の復讐劇か。かつて彼に逮捕され、その恨みから彼を殺したいと思っている異常者の犯行だろうか。ともかくサイモンはマクレーンの体力の限界を試すかのように彼に無理難題を押しつけて、ニューヨーク中を走り回らせ、苦しめる。物理的にとうてい不可能とも思える場所からウォール街駅構内の公衆電話に向かわせて、指定された時間内に出なければ乗客もろとも地下鉄を爆破すると通告してきたり。通りかかったタクシーを乗っ取り、セントラル・パークを猛スピードで突き抜けて目的地に到着すると、今度は些細なことにケチをつけ地下鉄を爆破、車両は大きく脱線し横滑りしながらプラットフォームになだれ込む。逃げ惑う人々でパニック状態に陥った現場に現れたFBI捜査官から意外な事実を聞かされ、驚くマクレーン。サイモンなる人物は、実は東ドイツ出身の国際テロリストで、本名をサイモン・ピーター・グルーバー、1作目でマクレーンが葬ったハンス・グルーバーの兄だという。となれば今回のドラマはいかにも復讐戦との匂いがプンプンしてくるのだが、果たしてそうか。そうした憶測が流れるなか、再びサイモンから電話が入り、市内の小学校の1つに爆弾を仕掛けたという。ただし、マクレーンとゼウスに命ずる作業を完成すれば爆発は免れるだろうとも。警官たちが1446にも及ぶ小学校に散らばったとき、サイモンは部下を従え、ウォール街の世界一の金の貯蔵所、連邦準備銀行そばの爆破現場にやってきた・・・
主演は第1作、2作に続きブルース・ウィリス。シュワルツェネッガーやシルベスター・スタローンのような鍛え抜かれた鋼鉄の肉体を持つわけでも、ヴァン・ダムのようなマーシャル・アーツの達人でもない。かといってトム・クルーズのようなハンサム・ガイでも決してない。少々寂しくなったオツムに、どことなく冴えない風貌、そしていつもボソボソとグチをこぼしながらの切れの悪いアクションは、これまでのアメリカ映画のヒーロー像とは遠くかけ離れたものである。しかし、だからこそ我々はそうした彼に一種の親近感を覚えることができるし、派手な体当たりの大格闘や、劇画的な血みどろの戦いは我々を限りなく楽しませてくれるのだ。監督は1985年、スリラー映画『ノーマッズ』(Nomads)でデビューして以来、『プレデター』(Predator,
1987)、『ダイ・ハード』(Die Hard, 1988)、『レッド・オクトーバーを追え』(The Hunt for Red
October, 1990)、『ラスト・アクション・ヒーロー』(The Last Action Hero, 1993)などのアクションもので、一躍ハリウッドの寵児となったジョン・マクティアナン。第1作目の『ダイ・ハード』をスケール・アップし、『スピード』(Speed,
1994)のスリルと興奮をプラスした1995年の超ヒット作である。 |
曽根田 憲三 (相模女子大学教授) |
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■この映画の英語について
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アメリカ映画を見る際、我々は日本語では口にできない言葉、ないしは決まらない言葉がさらりと、時にはクールに、時にはロマンチックに語られるのを待っている。そして『ダイ・ハード』シリーズも3作目となれば当然マクレーンの早口でまくし立てられる台詞の妙に期待することになるが、彼と登場人物たちとの間の丁々発止の台詞の掛け合いは我々をニヤリとさせたり、笑わせたり、ほろりとさせてくれたりと、相変わらずだ。ひょんな事から事件に巻こまれるインテリ黒人のゼウスとマクレーンとの間に交わされるジョークの数々(その中にはブラック'ーモアや矛盾したことを平然と述べるアイリッシュジョークもある。例えば死体を相手に
What are you doing?/Interrogating him./What's he going to tell you?/I
won't know till I ask him. と言うようなナンセンスなやり取り)、主犯のドイツ人グルーバーや仲間たちのドイツ訛りの英語、彼らの出す無理難題を解決するたびに発せられるマクレーンの勝ち誇ったような皮肉、いつもながらの警察用語(fraud,
omnipotence predominate)など聞いていて楽しい言葉のオンパレードであり、同性愛を示す言葉(Everybody
knows you like pansies.)や fuck など俗語もふんだんだ。
しかしこの作品をさらに楽しむためには文化的背景の知識が不可欠である。マザーグースからの引用が話を動かすからだ。まずグルーバーがマクレーンにあれこれ命令を出す際に
Simon Says と言ってから始めるのだが(Simon says. Simon's going to tell Lieutenant
McClane what to do.)これはリーダーが「Simon Says」と言った後の命令には従わねばならないが、言わなければ従った者の負けになるという子供の遊びである。この直前にもグルーバーはマザーグースを引用しているのだが彼の本名がサイモンであるためこのゲームは信憑性を帯び、彼が
Simon Says と言うのか否か注意をしていかなくてはならなくなる。またグルーバーの電話番号を当てるためのヒントであるセント・アイヴスの話はマザーグースの中でも有名ななぞなぞで、答えは1人なのだが(As
I was going to St.Ives)、二日酔いで冷静に考えられないマクレーンにはすぐに答えが浮かばないため、はらはらさせられる。挙句の果ては、Simon
Says と言わなかったと落ちがつく(I didn't say, "Simon says".)。また3ガロンの容器と5ガロンの容器を使って4ガロンにする問題は恐らく普遍的なトンチクイズであり、解ける人ならほくそ笑んでいることだろうが、これも台詞を確認すれば自分と同じ解き方だったのかどうかがわかる。そして人種問題も避けては通れない(You
don't like me 'cause you're a racist.)。究極的には英会話の勉強とは単に言葉をまね、やり取りを行うだけでは十分ではないということなのだ。この事に気づかせてくれるだけでもこの作品は侮りがたい。
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及川 学 (慶應義塾大学講師) |
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■目次
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1. |
Where's McClane? |
マクレーンはどこだ |
……………… |
8 |
2. |
Simon Says |
サイモン・セッズ |
……………… |
32 |
3. |
Riddles And Rhymes |
なぞなぞと押韻あそび |
……………… |
50 |
4. |
Subway Bomb |
地下鉄爆破事件 |
……………… |
70 |
5. |
Wall Street Scam |
ウォール街の信用詐欺 |
……………… |
90 |
6. |
The Bank Vault |
銀行の金塊貯蔵庫 |
……………… |
114 |
7. |
Search For Dump Trucks |
ダンプカーを探せ |
……………… |
134 |
8. |
Chester A. Arthur |
チェスター・A・アーサー |
……………… |
152 |
9. |
Bridgeport Harbor |
ブリッジポート港 |
……………… |
174 |
10. |
"North Of The Border" |
国境の北 |
……………… |
194 |
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■コラム
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ハーレム |
……………… |
30
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シリーズを彩る悪役の魅力 |
……………… |
48
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ウォール街 |
……………… |
68
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地下鉄 |
……………… |
112
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セントラル・パーク |
……………… |
132
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ブルース・ウィリス |
……………… |
214 |
名物のニューヨーク・ロケ |
……………… |
216
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■リスニング難易度
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評価項目
| 易しい → 難しい
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・会話スピード
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・発音の明瞭さ
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・アメリカ訛
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・外国訛
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・語彙
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・専門用語
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・ジョーク
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・スラング
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・文法
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合 計 |
19点 |
( 16以下 = Beginner, 17-24 = Intermediate, 25-34 =
Advanced, 35以上 = Professional )
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