■この映画のストーリー
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今を遡ることおよそ百年前、1892年のアイルランドのことである。ジョセフ・ドネリーは年老いた父親と二人の兄とともに激しい風の吹き付ける海辺の寒村で痩せこけた土地を耕して暮らしていた。ある日、父親は冷酷な地主に対して起こした農民たちの反乱に巻き込まれて深手を負った。なんとか家まで運ばれてはきたものの、「土地が無ければ人間は屑だ。そうとも、ああ、土地こそ人間の魂そのものだ…もしお前がその夢を手に入れたら、わしは天国からお前にほほ笑みかけることだろう」との言葉を残してこの世を去る。葬儀の日、莫大な借地料を滞納していたために地主の手下に家を焼かれ、父親ばかりか住む家さえも失ってしまったジョセフは、地主のダニエル・クリスティへの復讐を決意して、村の老人から古びた銃を譲り受けて旅立った。それから数日の後、通りがかったとある村のパブに立ち寄ったジョセフは、一人の陽気な客に声をかけられる。しかし、この人物こそジョセフが血眼になって追い求めていたダニエル・クリスティその人だった。千鳥足で酒場を出ていく彼の後を追い、彼の屋敷の馬小屋へと忍び込んで機会を伺うジョセフだったが、乗馬から帰ってきたじゃじゃ馬娘のシャノンに見つかり、彼女に脚を農具でグサリ、おまけに騒ぎを聞いて駆け付けてきたダニエルを狙った銃が暴発してジョセフの方が失神してあえなくご用となってしまったのである。
二階の部屋で意識を取り戻したジョセフが隙をみて逃走を企てたとき、まるで彼を待ち受けるかのようにシャノンの婚約者スティーブンが姿を現した。その瞬間に自分たちの家に火を放った男だと気づいたジョセフは、スティーブンを床にねじ伏せ、その顔にツバを吐きかける。婚約者の見ている前でプライドを傷つけられたスティーブンは彼に決闘を申し出た。翌朝、殆ど視界がきかない深い霧の中で銃を片手に立っているジョセフの前になんとシャノンが馬車で駆けつけてきた。地方の上流階級の窮屈で退屈極まりない生活を抜け出して、自由でモダンな空気を心ゆくまで吸ってみたいと夢想する彼女はジョセフの勇気と行動力に全てを賭けたのであった。自由の国アメリカへ行けば土地はただで手に入るとジョセフを説き伏せ、彼らは大西洋を渡っていった。だが、苦労の末に辿り着いた夢と理想の国アメリカは彼らの想像とは大きく異なっていた。夢を信じ、希望に胸を膨らませボストンの港に降りたった二人にハイエナのように群がる怪しげな人々の群れ。雑踏のドサクサの中で全てを奪われ、未知の国で途方に暮れるジョセフとシャノン…。
自由と独立を渇望してアメリカという可能性を秘めた世界へと飛び出して行く若者ジョセフに扮するのは『トップガン』(1986年)でスターの仲間入りを果たすや、『ハスラー2』(1986年)、『レインマン』(1988年)、『7月4日に生まれて』(1989年)など、次々と話題作に出演して名実ともにスケールの大きい存在感のある一流俳優へと成長を遂げたトム・クルーズだ。また彼と運命をともにする愛くるしい女性シャノンを熱演するのは、『デイズ・オブ・サンダー』(1990年)でクルーズと共演したことがきっかけとなり、実生活にあっても良きパートナーとなったオーストラリア出身のニコル・キッドマンである。そして監督には23才のとき『バニッシングIN
TURBO』(1985年)でデビューしてから『スプラッシュ』(1984年)、『コクーン』(1985年)、『バックマン家の人々』(1989年)、『バックドラフト』(1991年)など数々のヒット作を世に送りエンターテイメント監督としての名声を欲しいままにする俳優上がりのロン・ハワードがあたっている。
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曽根田 憲三 (相模女子大学教授) |
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■この映画の英語について
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社会主義派のオリバー・ストーン監督が作ったこの秀作は、知的な会話によって進行しているので、私たちが覚えていて応用出来る表現が多くある。悪役を演じている人たち この作品は今から約100年前のアイルランドの地主階級、その農民、開拓途上時代のアメリカの下流庶民が話す三種類の英語を聞かせてくれる。しかし、それらの人たちに独特の言い回しや単語が時折散発されるのを除けば、全体としてはクセのない無難な英語が使われていて、最近アメリカで制作された殺人事件ものや
SF ものに比べると、私たち日本人として耳に入り易い応用し易い台詞が多いと言えよう。
まずプロローグになるアイルランドの寒村の場面では、you の代わりの ya とか Dad をつづめた Da のような標準英語ではない単語が二、三出てくるが、ここでの皆の発音は意外に訛りがない。現地で庶民の人たちの発音を聞くと、イングランドは別として、アイルランドでもスコットランドでもウエールズでもかなりひどいもので、私たちには半分くらいしか分からないことも多い。映画のなかでは俳優たちはたいてい舞台になった地方の訛り
(regional accents) を真似るわけだが、この作品では、特にはっきりとした地方色は感じられなくて、普通のイギリス英語の発音で話している。Nora(クリスティ夫人)と
Stephen(Tom Cruise の敵役)の話し方には少し気取りがあるが、ヒロインの Shannon の話し方は標準的イギリス英語と言える。
しかし大地主 Christie だけは明らかに勿体ぶった表現を使っている。例をあげると、村の薄暗い酒場に入って来たあとで、I
live in a house that's stuffy and dull. I've a wife who forbids
me to drink. と言っているが、普通はこのような関係代名詞を入れた表現は使わない。My house's stuffy
and dull. My wife doesn't let me drink. (私の家は堅苦しくてつまらない。家内は私に酒を呑ませないんだ)くらいに言うところである。そのすぐ後の
I crave adventure, boys. も気取っていて、大人に向かって boys (諸君)と呼びかけるのは、マッカーサー元帥が幕僚たちに向けるような高飛車な語気になる。(ただし、the
Bataan Boys のように第三者が使う表現としては、中立的になる)
新世界に渡る船中で Mr. McGuire なるイカサマ米人が登場すると、とたんに発音が鼻にかかったアメリカ式になるのに気づくだろう。これから後、ボストンで労働者が集まるクラブとサロンに着くと、はっきりとアメリカ英語らしく飾りのないずけずけした物言いになるのは当然の成り行きに過ぎない。ただし、Tom
Cruise は相変わらずアイルランド出の若者役に徹して、彼本来のアメリカ英語のそれとは一味ちがったイギリス風の発音を続けている。
この作品ではこのようなイギリス英語とアメリカ英語の微妙なしかも歴然とした差異にも関心を払ってみてはいかがだろうか。 |
池田 拓朗 (青山学院大学教授) |
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■目次
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1. |
ジョセフ |
Joseph |
……………… |
7 |
2. |
ムーンライト隊長 |
Captain Moonlight |
……………… |
16 |
3. |
決闘 |
Dueling Pistols |
……………… |
27 |
4. |
盗まれたスプーン |
Stolen Spoons |
……………… |
37 |
5. |
農民たちの反乱 |
A Fiery Rebellion |
……………… |
48 |
6. |
ボクサー |
Scrapper |
……………… |
61 |
7. |
世間知らずのアイルランド人 |
An Ignorant Mick |
……………… |
72 |
8. |
銃弾 |
Gunshot |
……………… |
83 |
9. |
人間の魂 |
A Man's Soul |
……………… |
91 |
10. |
夢のレース |
A Race for a Dream |
……………… |
101 |
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■コラム
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アイリッシュ系アメリカ人の光と影 |
……………… |
15 |
トム・クルーズについて |
……………… |
71 |
Mine by destiny! |
……………… |
90 |
各国民に付けられたあだ名 |
……………… |
108 |
愛の表現 |
……………… |
110 |
アイルランドってどんな国 |
……………… |
112 |
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■リスニング難易度
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評価項目
| 易しい → 難しい
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・会話スピード
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・発音の明瞭さ
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・アメリカ訛
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・外国訛
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・語彙
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・専門用語
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・ジョーク
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・スラング
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・文法
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合 計 |
15点 |
( 16以下 = Beginner, 17-24 = Intermediate, 25-34 =
Advanced, 35以上 = Professional )
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