17歳のカルテ
GIRL, INTERRUPTED



監修 福永保代
翻訳・解説 福永保代/塚田三千代/増田恵子/吉井ちづ子/田浦昌子
編集 椎原寛基/LONG"MARTIN"MAI
A5版 179頁 ISBN-4-89407-327-7
本体価格=1,200円(税別)
2003年(平成15年)3月5日 初版発行

映画公式サイト


時は1967年。ごく普通のアメリカのティーンエイジャーだった17歳のスザンナ・ケイセンは、混乱し、不安に苛まれ、自分の周囲でめまぐるしく変わる世界に意味を見出そうと必死になっていた。彼女は自殺を図り、軽い気持ちで精神科に入院する。そこで診断された病名は“ボーダーライン・ディスオーダー(境界性人格障害)”。 切れてしまいそうな神経を抱え、とまどい、揺れ動くスザンナ。けれど、この病院で出会った風変わりな女性たちは、彼女の親友になるだけでなく、見失っていた自分自身を取り戻す道を明るく照らし出してくれた――。

書 籍 紹 介
 
映 画 紹 介
書 名 スクリーンプレイ
「GIRL,INTERRUPTED
     17歳のカルテ」
製 作 1999年
監 修 福永 保代 会 社 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES
仕 様 A5版、179ページ 監 督 JAMES MANGOLD
発行日 2003年3月5日 脚 本 JAMES MANGOLD
出版社 株式会社 スクリーンプレイ 出 演
WINONA RYDER
定 価 本体1,200円(税別) ANGELINA JOLIE
ISBN 4-89407-327-7 CLEA DUVALL

 

■この映画のストーリー

 映画『17歳のカルテ』(Girl, Interrupted, 1999)は大人への一歩を踏み出せない不安定な精神状態から、はからずも自殺未遂に至ったスザンナ・ケイセン (Susanna Kaysen, 1950- )が「境界性人格障害」と診断され、家族や友人のもとを離れて心療病棟で過ごした2年間の回想録にもとづく。同名の原作は1993年にニューヨーク・タイムズで11週連続ランクインしたベストセラー。題名 Girl, Interrupted は17世紀オランダの画家フェルメール (Johannes Vermeer, 1632-75)の絵画で、音楽レッスンを中断されて戸惑う少女を描いた『稽古の中断』(Girl Interrupted at Her Music, 1660-61)からとられている。
 高校を卒業したばかりのスザンナはつい4日前、アスピリン1瓶を大量のウォッカで流し込んだあげく、救急車で病院に担ぎ込まれた。動機が何だったのか、自分でもよく分からない。たしか頭痛がした。手から骨がなくなった。不安だった。何だか無性に悲しかった。同じ所に居続けるのが辛かった・・・。けれど、自殺するつもりでなかったことだけは確かだ。
 「なぜ」「どうして」と、急き立てるようにドクターの質問が続く。うまく答えられないスザンナは苛立ち、タバコに手を伸ばす。彼女の脳裏を、過去のさまざまな場面がよぎる。どれもあまり楽しい記憶とはいえない。父親の誕生パーティーに普段着のまま現れて両親に恥をかかせたこと。そこには、しつこく肉体関係を迫る大学教授も来ていた。誘われるままに、1度だけ付き合ったことがあるけれど、実はクラスメートの父親だった。それから、高校の卒業式で居眠りをしたこと。名前を呼ばれたのに気づかず、皆の笑い者になった。
 ドクターに促されて、タクシーに乗せられたスザンナは精神医療施設クレイムアに入院する。「サウスベル」と呼ばれる女子病棟で最初に見かけたのは、灯油をかぶって自分の顔に火をつけた「反抗挑戦性障害」のポリー。ほかに「神経性無食欲症」で体重が34キロにも満たないジャネット、「神経性大食症」で下剤中毒のデイジー、「空想虚言症」のジョージーナ、攻撃的で常習的に脱走を繰り返す「反社会性人格障害」のリサ。彼女たちのただならぬ様子にスザンナはただ当惑するばかりだ。
 病棟の生活も大いに彼女を当惑させた。10分おきの見回り。強制的に飲まされる薬。真夜中の叫び声。入浴時の監視等々。けれども、飲むと見せかけて薬を隠す方法を教わったり、皆で院長室に忍び込んでカルテを覗いたりするうちに、仲間としての連帯感が強まってゆく。それぞれ事情が異なっていても、社会に馴染めないでいる辛さだけは共有できるのだ。病院に着いた時、タクシー運転手が「こんな所に居つくんじゃないぞ」と警告したことも、自分から「そんなに長くいるつもりはないの」と言ったことも記憶の彼方に消え去り、クレイムアはいつのまにか居心地の良い場所になっていた・・・。
 スザンナ・ケイセンを演じたウィノナ・ライダーはこれまで20本以上の映画に出演しているが、そのうち『エイジ・オブ・イノセンス』(The Age of Innocence, 1993)と『若草物語』(Little Women, 1994)でアカデミー助演女優賞にノミネートされている。原作に出会ったとき「この作品の人物も出来事も決して他人事ではない」と直感した彼女は、すぐに映画化権を取得したものの、地味な作品であることから、ハリウッド・メジャーの後押しを受けることがむずかしく、自ら資金を集めて製作総指揮にあたることになった。
 キャスティングでは、悪魔的な魅力を放つリサを誰が演じることになるのかに注目が集まったが、アンジェリーナ・ジョリーがオーディション会場に現れた瞬間に即決。うつろな目、なげやりな態度など、審査が始まる前からすでにリサになりきっていたという。この迫真の演技でアカデミー助演女優賞、ゴールデングローブ助演女優賞に輝いた彼女は、この後も、『60セカンズ』(Gone in Sixty Seconds, 2000)、『トゥームレイダー』(Tomb Raider, 2001)と話題作への出演が続き、その強烈な個性ゆえにもはや『帰郷』(Coming Home, 1978)の名優ジョン・ボイトの娘という肩書きを必要としない存在になっている。
 監督のジェームズ・マンゴールドは、『君に逢いたくて』(Heavy, 1995)や『コップランド』(Cop Land, 1997)など、内向する心理状態や、社会とうまく折り合えない人物像を描き出すことでは定評がある。脚本も手がけた彼は、アメリカ人なら誰もが知っているフランク・ボーム (Lyman Frank Baum, 1856-1919)作『オズの魔法使い』(The Wizard of OZ, 1900)の物語をメタファーとすることで、家路を模索する主人公ドロシーのイメージを病棟の少女たちに重ねあわせている。
 撮影はペンシルバニア州立ハリスバーグ精神医療施設で行われた。広大な敷地にレンガ造りの建物など、原作者が実際に入院していたケンブリッジ近郊のマクレイン病院と驚くほど似ている。当時は、単に社会生活に馴染まないという理由から子弟を精神医療施設に送り込むことが合法化されており、マクレイン病院には1泊50〜60ドルの入院費を支払うことのできる比較的裕福な家庭の子弟が多く、入院患者リストには小説『自殺志願』(The Bell Jar, 1963)でも知られる詩人シルビア・プラス (Sylvia Plath, 1932-1963)の名前も残されている。    1960年代後半のアメリカといえば、国外ではヴェトナム戦争の激化、国内では反戦運動、公民権運動、ウーマンリブ旋風が吹き荒れ、旧来の価値観が崩れるなか、新しいものが未だ確立しきれずにいる、といった激動の時代である。エネルギーがほとばしるあまりに、うまくフィットインできない青年期特有のこころの不安。ここで描かれる少女たちの苦しみは、まさに60年代アメリカの苦しみでもあったといえる。「あれが、1958年だったら入院していなかった。1978年でも、1988年でもね」というケイセン自身のコメントが印象深い。
 原作には「こちら側から向こうは見えないけれど、向こう側に行ってしまうと、こちらの世界がとてもよくみえる」「アルカトラズのすべての窓からサンフランシスコが見える」とある。アルカトラズとは、サンフランシスコ湾内の小さな島にある元刑務所で、近距離ながら、周囲の海流が激しいために脱出不可能といわれた場所。見えていながら、決して交差することのないパラレル・ワールドとは、このような現象なのだ。
 ところで、まともなのはこちら側なのか。それとも、向こう側なのか。退院を許可されたスザンナは復帰する社会がまともでないことを知っている。自分でも理解できない症状のために入院し、回復の自覚がないまま退院する。どこが回復したというのだろう。どこも変わってはいない。入院時と同じなのだ・・・。
 「何人の男性と関係したら淫乱になるの?」「どうして、男性には淫乱という言葉が使われないの?」「境界性人格障害という疾患が若い女性にばかりみられるのは何故?」60年代に発せられた彼女の疑問は、21世紀を迎えた現在もなお、強烈なインパクトを与え続けている。
福永 保代 (フェリス女学院大学)

■この映画の英語について

 この映画の英語を学ぼうとするときは、これは精神病棟で暮らしながら治療を受ける少女たちや医師たちとの会話であり、精神治療に関する専門用語も交わされることを念頭において始めていただきたい。なかでもとくに次の諸点にぜひ注目したい。
  まず、映画『17歳のカルテ』の原題 Girl, Interrupted について。この題名はオランダの画家 J.フェルメールの音楽を中断された少女の絵画名にちなんでいるが、スザンナ・ケイセンが、自分の過ごした18歳から2年間の精神病棟生活を「中断された」人生だったと認識し、上述の絵の主題に重ね合わせて観ているのである。その感性をこのように、Have you ever confused a dream with life? Maybe it was the Sixties. Or maybe I was just a girl... interrupted. (本書p.8)と独白している。
  次に、彼女の病名 Borderline Personality Disorder(境界性人格障害)。これは自己像や人間関係や情緒などの不安定、倒錯、自傷行為(手首をひっかいたりする)などで成人期初期には誰に起きても不思議ではない症状である。友人や恋人のタイプ、将来の目標や職業の選択、価値観などについて空虚感や倦怠感を感じ、人生の様々な面で自信の無さとして現れやすい。スザンナが読み上げる診断書には、instability of self-image, relationships and mood, uncertainly about goals, impulsive in actives, casual sex, self-damaging, social contrariness, pessimistic attitude などの用語が出てくる(本書p.80)。
  そして狂気からの回復。外の世界へ戻るため、スザンナはどのようにして狂気と正気の境から回復したのか。セラピーを受けて告白し、原因の明確化や治療方法が見えてこなければならない。スザンナの主治医は、問題は mystical undertow in life(人生の不思議な暗流)、つまりquicksands of shadows(実体のない流砂)の扱い方が問題だと言う。Ambivalence suggests strong feelings in opposition. だからこそ、今直面すべきことは The choice of your life. How much will you indulge in your flaws? If you embrace them, will you commit yourself to hospital for life? (本書p.120-122)だと。ヴァレリーも You are not crazy. You are a lazy, self-indulgent little girl who is driving herself crazy.(本書p.126)と、スザンナを手厳しく叱責する。やがて、スザンナは強い意志で回復にとりくみ、A thought is a hard thing to control. Out in the real world. All I know is that I begin to feel things again. I knew there was only way back to the world and that was to use the place to talk. My tongue becomes this intrusion. (本書p.152)と、心の深層を表現することによって回復に向かう。
  最後に見落としてはならないことは、病棟でのスザンナと他の少女たちとの交友についてである。リサ、ジョージーナ、デイジー、ポリーたちの会話は心底を隠すことなく発露しており、スザンナにとって忘れられない人々であった。彼女たちが交わした言葉は本書の頁に散在しており、決して見逃せない貴重なものばかりである。
塚田 三千代

■目次

1. Overdose 過量摂取 ……………… 8
2. Claymoore クレイムア病院 ……………… 24
3. First Therapy 初めてのセラピー ……………… 48
4. Personality Disorder 人格障害 ……………… 62
5. Outer World 外の世界 ……………… 76
6. Encouraging Song 励ましの歌 ……………… 96
7. Ambivalence アンビヴァレンス ……………… 118
8. Suicide 自殺 ……………… 134
9. Recovery 回復 ……………… 150
10. Leave the Hospital 退院 ……………… 162

■コラム

アンジェリーナ・ジョリー ……………… 46
境界性人格障害 ……………… 148

■リスニング難易度

評価項目 易しい → 難しい
・会話スピード
1 2 3 4 5
・発音の明瞭さ
1 2 3 4 5
・アメリカ訛
1 2 3 4 5
・外国訛
1 2 3 4 5
・語彙
1 2 3 4 5
・専門用語
1 2 3 4 5
・ジョーク
1 2 3 4 5
・スラング
1 2 3 4 5
・文法
1 2 3 4 5
合 計 22点

( 16以下 = Beginner, 17-24 = Intermediate, 25-34 = Advanced, 35以上 = Professional )