アイ・アム・サム
I am Sam


監修 亀山太一
翻訳・解説 井上英俊/亀山太一/久米和代/柴田純子
編集 二村優子
A5版 200頁 ISBN-4-89407-300-5
本体価格=1,200円(税別)
2002年(平成14年)9月18日 初版発行

映画公式サイト


  「映画を見ている間中、涙が止まらなかった」(ABCニュース)。知的障害のために7歳の知能しかもっていないサム・ドーソンの、たった一人の娘ルーシーとの、親子の深い絆を感動的に描いた映画。2002年アカデミー賞主演男優賞にもノミネートされたショーン・ベンが熱演。「発音の明瞭さ」にやや難しさがあるが、全体として平均的なリスニング難易度「中級」の作品である。

書 籍 紹 介
 
映 画 紹 介
書 名 スクリーンプレイ
「I am Sam
アイ・アム・サム」
製 作 2001年
監 修 亀山 太一 会 社 ニューラインシネマ
仕 様 A5版、199ページ 監 督 Jessie Nelson
発行日 2002年9月18日 脚 本 Kristine Johnson & Jessie Nelson
出版社 株式会社 スクリーンプレイ 出 演
Sean Penn
定 価 本体1,200円(税別) Michelle Pfeiffer
ISBN 4-89407-300-5 Dianne Wiest

 

■この映画のストーリー

  『クレイマー、クレイマー』と『レインマン』の感動を1つにしたような映画。『アイ・アム・サム』を見た後、このような感想を抱く人が多いのではないだろうか。
 『クレイマー、クレイマー』では、男手一つで子供を育てている父親が、離婚した妻の突然の再来により親権を奪われそうになる。これは、『アイ・アム・サム』でショーン・ペン演じるサムが娘のルーシー(ダコタ・ファニング)を児童福祉局によって奪われてしまうというストーリーに通じる。この映画の中でも、「ビデオ会」で上映するビデオのタイトルとして登場したり、裁判のシーンでセリフをそのまま引用するなど、『クレイマー、クレイマー』をかなり意識して作られていることは明らかである。
 『レインマン』では、ダスティン・ホフマンが自閉症という特殊な病気を持つキャラクターを演じ、「ダスティン・ホフマンは本当に自閉症なのではないか」という感想を専門家に抱かせたという。一方『アイ・アム・サム』では、7歳児の知能しかない自閉症のサムという難しい役をショーン・ペンがみごとに演じ、ダスティン・ホフマンの伝説に迫る。
 上にあげた2本の映画が、どちらもダスティン・ホフマン主演という共通点を持つことは興味深い。ニューヨーク・ポスト紙の「ショーンの演技に、ダスティン・ホフマンも嫉妬するだろう」というキャッチコピーは、まさにこのことを言っている。  しかしこの映画には、『クレイマー、クレイマー』にも『レインマン』にも見られない大きな特徴がもう一つある。それは主人公サムをとりまく3人の女性たち ム隣人のアニー(ダイアン・ウィースト)、弁護士のリタ(ミシェル・ファイファー)、ルーシーの里親候補となるランディ(ローラ・ダーン)の存在である。
 アニーは、外出恐怖症で自分のアパートから出られないということを除けば、ルーシーの後見役を立派に果たすことのできる知識人であり、良識人でもある。ジュリアード音楽院を首席で卒業したというアニーは、音楽を通じても立派にルーシーの情操をはぐくんだに違いない。サムの親権をめぐる裁判で証言するため、外出恐怖症にもかかわらず無理をして裁判所まで足を運んだアニーが登場するシーンでは、思わず拍手をしたくなる。20年間一歩も外に出たことのなかったアニーが、ついに自分の意志で外に出ることができたのは、アニーが7年間母親代わりとなって面倒を見たルーシーの幸せを願う気持ちがあってこそであり、その意味では、アニーが20年目にして初めて外に出るきっかけをサムとルーシーが作ったとも言える。
 一方、サムの弁護士を務めるリタは、この映画を通じてもっとも「変化」をする役どころだ。はじめはリタはサムの弁護士を務めるつもりなどさらさらなく、何とかしてこの厄介者を追い払おうとするのだが、その意志に反して結局はこの勝ち目のない裁判を「無料奉仕で」引き受ける羽目になる。有能なやり手弁護士のリタは、一見非の打ち所のないスーパーキャリアウーマンのようだが、その裏には夫の浮気や息子とのミスコミュニケーションに悩む一人の女性の姿がある。そんなリタの悩む心が、サムとの交流によって癒されていく過程が、この映画のもう一つのテーマとして流れている。映画の後半でリタがつぶやく、"I worry that I've gotten more out of this relationship than you."(私たち2人の間で、得をしてるのはあなたよりも私の方)というセリフが、リタの心の変化を物語る。
 そしてもう1人登場する重要な役どころの女性が、ルーシーの里親となるランディだ。ルーシーの愛らしさと利発さは、ランディでなくともぜひ養子にしたくなるほど魅力的である。ましてや実の父親がサムのような障害者であれば、なおさらルーシーは自分たちのような「まともな」夫婦が引き取るべきだと考えるのも当然だろう。実際ランディも、はじめはサムが裁判所の命令を無視するような時間に会いに来たり、突然近くに引っ越してきたりしたことを迷惑がる。しかし、夜中に家を抜け出してサムに会いに行くルーシーを見ているうちに、ランディは本当にルーシーのためになることは何なのかを考えるようになる。ランディが登場するシーンは映画の後半で、あまり出番は多くはないのだが、この短い間に、ランディのサムとルーシーに対する思いの変化をローラ・ダーンは見事に表現している。
 このように、サムを取り巻く女性をうまく配置し、それぞれに魅力的な個性を与えたことが、この映画の成功の秘密といえる。そしてそれを可能にしたのは、監督のジェシー・ネルソンと共同脚本のクリスティン・ジョンソンが、共に子育て真っ最中の母親であるということだ。さらには、リタ役のミシェル・ファイファーも小学生の子供を持つ母親で、子育てと仕事の両立をこなしている女優であることも、彼女が圧倒的な説得力を持ってリタの立場を演じることができた理由であろう。  実力派俳優ショーン・ペンの厚みのある演技力をメインディッシュのステーキとするならば、輝くようなダコタ・ファニングのルーシーは極上のスパークリングワインである。そしてこれを取り巻く魅力的な女優たちの演技ひとつひとつがオードブルになり、スープになり、そしてデザートになる。それぞれのおいしさを感動と共に味わいながら、食べ終わった後の満足感にひたらせてくれる、洗練されたフルコース料理のような映画、それが『アイ・アム・サム』である。

亀山 太一


■この映画の英語について

 この映画の英語の特徴は、最近の映画にしては珍しく、いわゆる four-letter-word と呼ばれる卑語がきわめて少ないことだ。卑語の代表格である fuck は映画全体でわずかに1回、damn(goddamn)が7回、shit はまったく使われていない。おもしろいのは、わずかに登場するこの fuck 1回と damn 7回が、すべてリタのセリフだということだ。この映画の中でもっとも知的な職業とも言える弁護士のリタのセリフだけにこのような単語が使われているのは、ある意味皮肉なことだといえる。クライアントに対応したり、裁判で弁論したりするときのリタの英語はきわめて知的で丁寧、しかも正確であるが、反面、パトリシアや車や携帯電話に八つ当たりしたり、サムの態度にいらいらしたりするときのリタの英語はお世辞にも上品とは言えない。
 そんなリタのセリフと対照的なのが、サムとその友人たち(イフティ、ブラッド、ジョーら)の話す英語である。知的障害を持つ彼らは、英語を話す際にも文法的な間違いをおかしたり、単語の意味を間違って解釈していたりする。ただ、どんな場合にでもそれが「通じない」ということはないし、下品で聞くに堪えないような英語でもない。ここで、彼らの話す英語の特徴をいくつか見てみよう。
 イフティは、一つのセリフで使った単語から次々に連想を広げて脈絡のない話(といってもすべて映画に関する話)をするクセがある。Becca's gone から Gone with the Wind の話に飛んだり、ルーシーの靴を選ぶ場面では『オズの魔法使』に話が飛ぶ。イフティはおそらく自閉症だと思われるが、知的レベルはそれほど低くないと見えて、話す英語に文法的な間違いなどは比較的少ない。
 これに対してブラッドの英語には誤りが多い。典型的なのが次のセリフ。"The important thing is for Sam to be a very good father is to be there for her." 一文中に述語動詞(is)が2つも出てくる。これは英語を話す際のメモリースパン(記憶容量)が少ないため、話しているうちにどこまでがまとまりかを忘れてしまうためだと考えられる。このような間違いは、日本の中学生や高校生にもよく見られる。同じように、次のセリフ "Because the smarter Lucy is, the smarter she will get." で、前半と後半で同じことを言ってしまっているのもメモリースパンの関係だろうと思われる。ただし、これらのセリフの中で、前置詞や不定詞、さらに the + 比較級の構文などが正しく使われていることには注目したい。
 サムの友人の中でもっとも単純な英語を話すのがジョーである。すべてのセリフを拾ってみても、ジョーのセリフは数えるほどしかないが、"What a pretty baby." "it might have a little arch in there." "If you want to come to video night, you're welcome to." などのセリフに文法的な間違いはまったくない。
 つまり、英語を話す際の文法的誤りというのは、その人の知的レベル、言い換えれば「頭のよさ」とはあまり関係がないということだ、といえば、英語を勉強している人たちにとって少しは励みになるだろうか?

亀山 太一


■目次

1. Lucy Diamond ルーシー・ダイアモンド ……… 8
2. Not Like Other Daddies ほかのパパと違う ……… 26
3. Surprise サプライズ ……… 46
4. Rita Harrison リタ・ハリスン ……… 64
5. Pro Bono 無料奉仕 ……… 82
6. Free Lucy Dawson ルーシーを返して ……… 104
7. All You Need Is Love 愛こそすべて ……… 124
8. Constancy And Patience 変わらないこと、耐えること ……… 140
9. Dessert With Rita リタとデザート ……… 166
10. We Can Work It Out きっとうまくいく ……… 186

■コラム

アニーの外出恐怖症とは ………………………………… 24
映画の中のベッドタイム・ストーリー ………………………………… 44
映画と自閉症 ………………………………… 62
映画の中のサプライズ・パーティー ………………………………… 80
ストロベリー・フィールドからこんにちは ………………………………… 138

■リスニング難易度

評価項目 易しい → 難しい
・会話スピード
1 2 3 4 5
・発音の明瞭さ
1 2 3 4 5
・アメリカ訛
1 2 3 4 5
・外国訛
1 2 3 4 5
・語彙
1 2 3 4 5
・専門用語
1 2 3 4 5
・ジョーク
1 2 3 4 5
・スラング
1 2 3 4 5
・文法
1 2 3 4 5
合 計 24点

( 16以下 = Beginner, 17-24 = Intermediate, 25-34 = Advanced, 35以上 = Professional )