■この映画のストーリー
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『L.A. コンフィデンシャル』(L.A.Confidential, 1997)は、1950年代を駆け抜けたロサンゼルス市警3人の白人刑事の物語を軸として、アメリカの暗黒部の雰囲気がタイムスリップして描かれている。そこには、麻薬、売春、ギャンブルをめぐるマフィアの組織犯罪がまかり通り、華やかなハリウッド映画界のスキャンダルを暴露するタブロイド誌やポルノ写真集の売れる社会背景があり、一方では、豊かで、善良な家族が何不自由なくプール付きの家に住めるような環境もあった。そしてこの市民を保護することこそが、ロサンゼルス市警の任務であった。
映画に登場する3人の刑事、バド・ウェンデル・ホワイト(R・クロウ)と、エドモンド・J・エクスリー(G.ピアース)、そしてビッグVの愛称を持つ名物刑事ジャック・ヴィンセンズ(K・スペイシー)は、「血塗られたクリスマス」事件、「ナイト・アウルの虐殺」、「ポルノ写真集」発覚の3つの捜査に係わるうちにその接点に気づく。
「血塗られたクリスマス」事件は、1951年のクリスマス前夜、パトロール中の巡査がメキシコ移民に暴行されて負傷したことから始まる。署内でクリスマス・パーティに興じているうちに、酔った刑事が拘留中の容疑者に同僚の仕返しをしようとしたことがきっかけとなって、暴動に発展した。もちろん新聞はこれをスクープ。ロス市警は面目丸つぶれ。エクスリーの報告書をもとに暴動に加わった警官の処分と人事異動を発表することにより、ようやくその名誉を保つ。彼はこれを契機に昇進することになる。
コーヒー店で6人の男女がショットガンで無残にも射殺された。1953年の「ナイト・アウルの虐殺」事件である。容疑者は '48〜'50年型の栗色のマーキュリーに乗っていたことが分かり、黒人のチンピラ3人が逮捕される。彼等を尋問中に、メキシコ少女のレイプ事件や麻薬売買が絡んでいることが分かってくる。事件直前に、どぎつい「ポルノ写真集」が出回っていることが発覚していた。この捜査をすすめるジャック・ヴィンセンズは、それが「ナイト・アウルの虐殺」事件を解く鍵につながっていることを見い出す・・・。
「血塗られたクリスマス」事件の処分で、署内のスケープゴートにされて退職した元相棒、ステンズランドの殺害犯人を突き止めるために、バド・ホワイトも独自の角度から捜査を始める。ステンズランドはナイト・アウルでなぜ殺害されたのだろうか。
犯人を追い詰めるためには暴力も厭わない刑事バド・ホワイトの求めるものは何か? ロサンゼルス市警の名誉とは? 冷静にして合理主義で昇進志向のエクスリーの正義とは? 刑事ドラマ「名誉のバッジ」のアドバイザーとして名声を得て華麗な生活を送るジャック・ヴィンセンズは何を知ったのか? なぞの人物、ロロ・トマシとは誰か? 事件は複雑に絡み合いながら、思いがけない方向へと展開していく。
自分の信じる正義のために行動するが、ヒーローとは言い難い、ひと癖ある3人を、ラッセル・クロウ(Russell Crowe)、ガイ・ピアース(Guy
Pearce)、ケビン・スペイシー(Kevin Spacey)が好演している。彼等に加えて、キム・ベイジンガー(Kim Basinger)はヴェロニカ・レイク似の娼婦を演じてアカデミー助演女優賞を獲得した。
映画の原作は、ジェイムズ・エルロイの L.A.4部作の第3作目『L.A. コンフィデンシャル』である。ブライアン・ヘルゲランド(Brian
Helgeland)とカーチス・ハンソン(Curtis Hanson)が脚色し、ハンソンが制作・監督した。この2人は、この脚色によって1998年度のアカデミー最優秀脚本賞を初め、その他多くの賞を獲得した。ハンソンは監督歴も長く、『ゆりかごを揺らす手』(The
Hand that Rocks the Cradle, 1992)『激流』(The River Wild, 1994)なども手がけた人で、人間描写の巧みな監督である。
『L.A.コンフィデンシャル』には、オールドファンにとって昔懐かしい1950年代を彩る数々の自動車(リンカーン・コンチネンタル、パッカード、オールズ、スチュードベーカー、フォード、マーキュリー・クーペ)が登場する。さらに、当時流行のポップソングや、実在するフォルモッサ・カフェを使う手法、『シェーン』(Shane,
1953)で一躍有名になった人気俳優アラン・ラッドと女優ヴェロニカ・レイクとの共演映画(This Gun for Hire, 1942)や、オードリー・ヘップバーン主演の『ローマの休日』(Roman
Holiday, 1953)を各シーンに挿入して、現実感と雰囲気を盛り上げている。
映画の原作者ジェイムズ・エルロイ(James Ellroy, 1948)について言えば、彼を有名にしたのは、1947年から1954年にわたるロサンゼルスを舞台にした暗黒小説4部作である。『ブラック・ダリア』(The
Black Dahlia, 1987)、『ビッグ・ノーウェアー』(The Big Nowhere, 1988)、『L.A. コンフィデンシャル』(L.A.Confidential,
1990)、『ホワイト・ジャズ』(White Jazz, 1992)である。ハードボイルドな文体で書かれたシリーズで、それぞれの作品が主人公の異なる物語として独立した犯罪小説に仕立てられている。小説それ自体がフィルム・ノワール的と言われ、crime
fiction としての高い評価をすでに得ていたが、映画化にはプロットが複雑すぎるとされていた。
この通説をついに覆したのが、ヘルゲランド脚本家とハンソン監督である。彼らの製作した映画『L.A. コンフィデンシャル』は全体に詩情が漂い、ユーモアもありスピード感もある。フィルム・ノワールというよりはむしろネオ・フィルム・ノワールだといえよう。なるほどアカデミー最優秀脚色賞受賞の映画だと納得できる。
さて、この映画のキーワードはと言うと、じつに多いが、例えば、組織犯罪(organized-crime)、マフィア・麻薬・売春・ギャンブル、ハリウッド(Hollywood)、刑事(detective)、タブロイド紙(tabloid
= 1950年代のコンフィデンシャル誌)、人種問題(racism = 黒人、メキシコ移民)、尋問(interrogation)、レイプ(rape)、家庭内暴力(domestic-violence)などをあげることができるだろう。
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塚田 三千代 |
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■この映画の英語について
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『L.A. コンフィデンシャル』(L.A. Confidential)は、言葉どおり「ロサンゼルス極秘情報」という意味である。映画の冒頭からハッシュ・ハッシュ誌の編集長シド・ハジェンズが登場してメoff
the record, on the QT and very Hush-Hush.モ(非公式に、そっと極秘に、ごくごく内緒にね)と言いながらスキャンダラスな情報を次々に紹介している。読者あるいは観客は思わず身を乗り出して秘密情報とやらに目を凝らし耳をそばだてる。
L.A. は言うまでもなくロサンゼルスのことであるが、この映画では The L.A.P.D.(ロサンゼルス市警察署)のことも暗示している。ロス市警であるから犯罪、麻薬、恐喝、現場検証、尋問、証拠・・・などの語句が全編を通して出てくるのは当たり前としても、confidential
と言うだけあって、闇の世界の言葉が頻出し、さらに麻薬、売春、ホモなどを表すスラングが、これでもかこれでもかと言う感じで出てくる。
* 警察用語として、black and white(パトカー)、make a collar(逮捕する)、car cordon(車で非常線を張ること)、incarceration(投獄)、hot
seat(電気椅子)、hardened criminal(常習犯)、snitch(通報者)、stool pigeon(警察への密告者/サクラ)
* 犯罪に関する用語として、organized crime(組織犯罪)、henchman(子分/取り巻き)、snatcher(かっぱらい/誘拐犯人)、blackmail(恐喝)、enforcer(暗黒街の黒幕)、assassination(暗殺)、racket(不正な金儲け/密売)
* 麻薬に関する用語として、narco(麻薬 narcotic の略=dope)、dope fiends(麻薬常用者=drug
addict)、pot(安[密造]ウイスキー)、marijuana(タイマ/大麻/マリファナ)、H(heroin の略)
* その他、Move it!(さっさと行け!)、Break it up!(やめろ!、どいて!)、Freeze !(動くな!)等はその一例にすぎない。
しかし、その種の特別用語だけでなく映画の中で使われている日常の英語表現を取りあげても、様々な角度から英語を勉強できるだろう。
例えば、発音から多種多様な英語を聞き分けることができる。黒人特有の発音は黒人ボクサーや、ナイトアウルの容疑者とされた黒人のチンピラたちの英語から、また、メキシコ訛りの英語はレイプ事件の被害者イネス・ソトのセリフから明らかであるが、その他にもイギリス英語に近い発音のダドリー・スミス、エリート的なアメリカ英語のエド・エクスリー、会話を楽しむ術を心得ているジャック・ヴィンセンズのしゃれた英語、ぶっきらぼうなバド・ホワイト、イタリア訛りのジョニー・ストンパナート、言葉だけで男たちを虜にしてしまうリン・ブラッケン、教養のない田舎者のヒルダ・レファーツ・・・のように、登場人物達はそれぞれ個性豊かな英語を話していることがわかるだろう。
さらに同じ人でも話し相手で話し方が変わるのは、何も日本語の専売特許ではなく、英語の世界にもあると言うことに改めて気付く。分かりやすいのは前半、エドが上司のダドリーに向かって話す時の正統派英語と、黒人少年を取り調べる時の相手に合わせた英語。あるいは普段は寡黙なバドが怒り狂った時の散弾銃のような英語と、愛するリンとの会話の違い・・・という具合に多彩な英語が楽しめる。
英語学習初心者がスラング(時に dirty words)をやたらに使うのは感心しないが、映画で使われている会話に注目して、自分自身の会話に取り入れ、教科書どおりの英語から脱却を試みるのもよいだろう。その例は何でも良い、自分がこの表現はいいなあと思ったら、それを拝借し使ってみることだ。その言葉が使われた背景も良くわかっているはずだからTPOを間違うこともないだろう。この映画ビデオの楽しみは、見れば見るほど、聞けば聞くほど増し、その奥行きの深さに魅了されるに違いない。
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秋好 礼子 |
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■目次
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1. |
The L.A.P.D. |
ロサンゼルス市警 |
……………… |
8 |
2. |
Bloody Christmas |
血塗られたクリスマス |
……………… |
28 |
3. |
Scapegoat |
スケープゴート |
……………… |
42 |
4. |
The Nite Owl |
ナイト・アウルの虐殺 |
……………… |
54 |
5. |
Ed Exley |
エド・エクスリー |
……………… |
72 |
6. |
Badge of Honor |
名誉のバッジ |
……………… |
88 |
7. |
Lynn Bracken |
リン・ブラッケン |
……………… |
106 |
8. |
Jack Vincennes |
ジャック・ヴィンセンズ |
……………… |
120 |
9. |
Bud White |
バド・ホワイト |
……………… |
134 |
10. |
A Hunch |
第六感 |
……………… |
148 |
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■コラム
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ロサンゼルス市の発展 |
……………… |
26 |
ロサンゼルス死警察署について |
……………… |
70 |
曲者俳優K・スペイシーとキー・ワード |
……………… |
86 |
この映画の名セリフ |
……………… |
132 |
Policeman(警察官階級表) |
……………… |
146 |
拳銃の口径は何を表してる? |
……………… |
147 |
キム・ベイシンガー |
……………… |
166 |
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■見本ページ
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■リスニング難易度
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評価項目
| 易しい(1) → 難しい(5)
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・会話スピード
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・発音の明瞭さ
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・アメリカ訛
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・外国訛
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・語彙
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・専門用語
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・ジョーク
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・スラング
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・文法
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合 計 |
21点 |
( 16以下 = Beginner, 17-24 = Intermediate, 25-34 =
Advanced, 35以上 = Professional )
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