ペイ・フォワード [可能の王国]
PAY IT FORWARD


監修 曽根田憲三
翻訳 曽根田憲三/及川学/及川一美/伊藤盡/曽根田純子
語句解説 曽根田憲三
編集 二村優子/PAUL LEWIS
A5判 154頁、ISBN4-89407-252-1
本体価格=1,200円(税別)
2001年(平成13年)2月7日 初版発行


くそったれな世界を変えるために、トレバーが考え出したアイデア。それが、好意を受けたらその人ではなく誰か別の3人に好意を贈る「ペイ・フォワード」。「ペイ・フォワード」は、彼の知らないところで段々と広がっていく…。意外なラストが泣けます。多少汚い言葉も話されますが、標準的なアメリカ英語です。

書 籍 紹 介
 
映 画 紹 介
書 名 スクリーンプレイ
「PAY IT FORWARD
     ペイ・フォワード」
製 作 2001年
監 修 曽根田 憲三 会 社 Warner Bros
仕 様 A5版、154ページ 監 督 STEPHEN SOMMERS
発行日 2001年2月7日 脚 本 LESLIE DIXON
出版社 株式会社 スクリーンプレイ 出 演
KEVIN SPACEY
定 価 本体1,200円(税別) HELEN HUNT
ISBN 4-89407-252-1 HALEY JOEL OSMENT

 

■この映画のストーリー

 今日のアメリカ女流作家 Catherine Ryan Hyde(1955-)の運転するダットサンがロサンゼルス市内のとあるぶっそうな地区を通りがかったと き、突然、エンストを起こして止まったかと思うや、ボンネットから黒い煙を吐き出し始めた。車から飛び出して、なす術もなくただ茫然と立ちつ くす彼女のもとへ2人の男性が毛布をもって駆けつけてきて、消化作業にあたってくれた。彼女が落ち着きを取り戻し、礼を言おうと振り返ったと きには、すでに2人の姿は見当たらなかった。彼らは彼女を助け、名前を告げることなく、いずこへともなく立ち去ってしまったのである。彼女は 後悔の念に苛まれ、重い気分で毎日を過ごしていたある日、1つの考えがひらめいた。自分を助けてくれた人に恩返しができないのなら、その恩義 を先に送ろう。そして20年近くの歳月を経た1999年になって、彼女はそのときの体験をベースにした Pay It Forward と題する小説の執筆に取りか かったのである。1996年から、小説や戯曲などの映画化権取得を目的とする会社を設立して、映画制作プロジェクトとして立ちあげる事業を行って いる製作総指揮の Jonathan Treisman は、まだ原稿の段階にあったこの小説を読み、いたく感動したために、すぐさま映画化の作業に入った。
 物語はロサンゼルスの報道記者クリスが人質事件現場での取材中に、逃走する犯人に車を追突されて、彼のムスタングが大破するところから始 まっている。悲しげな表情で金属の山と化した哀れな車を眺めていると、通りがかった見ず知らずの人物がクリスに真新しいジャガーの鍵を投げて よこす。彼へのプレゼントだというのだ。「あんたの奥さんでも殺してほしいのか」と冗談まじりに問いかける彼に、男はおだやかな笑みを浮かべ て、受けた好意を3人の人物に送れというなり、あっけにとられた彼を尻目に、小雨にけむる闇の中へと消えていく。好奇心を刺激されたクリスは この不思議な行為の裏にある秘密を解明すべく、調査に乗り出すことにした。
 4か月の時を遡ったラスベガスの中学校1年の最初の日、社会科の授業でシモネット先生は生徒たちに「世界を変えるためのアイディアを考え出 して、それを実行に移すこと」という課題を出した。単に地名や年代を暗記させるのではなく、厳しい人生に対する準備をさせてやることが教育の 目標だと考える、他の教師とはどこか違ったシモネット先生の熱い言葉にトレバー少年は魅かれつつも、首を傾げる。果たしてそんなことができる のだろうか。少年が住む繁栄から置き去りにされた影の地区ではあちこちでホームレスがたむろしている。彼の母親アーリーンは昼間はカジノで、 夜はストリップバーでウエイトレスとして働くアル中だ。同じくアル中だった父親は家を飛び出し、今では行方知れずになっている。しかも彼が通 う学校だって似たようなものだ。クラスメートは学内にナイフを持ち込み、いじめや恐喝が横行している。こんな世界を一体どうやって変えるとい うのだ。
 自分の人生が恵まれないゆえに、社会が悪と暴力ですさんでいるがゆえに、トレバーはそれらが少しでも良くなるような何かをしなければならな い。そして彼は遂に「ペイ・フォワード」というアイディアを思いつく。それは3人の人物に対して恩義を施し、それを受けた人は好意を返すので はなく、身の回りにいる別の3人に送る、というものだ。その考えはシモネット先生が示唆するように、現実の厳しさを知り抜いている大人たちに とっては、いささかユートピア的であるかもしれない。しかし、何の偏見もない純朴な子供にとっては今すぐにでも実行できる、極めて単純なこと なのだ。早速この計画の実践に移ったトレバーは麻薬中毒のホームレスを自分の家に招き入れ、食事を与え、そして寝場所を提供してやる。次の ターゲットは自分の母とシモネット先生の仲をとりもつことである。だが、このケースは思った以上に難航しそうだ。生々しい火傷の跡で顔を覆わ れたシモネット先生は、であるがゆえに心を閉ざし、自分の殻に閉じこもった男である。生徒を前にしての授業のみが彼に満足を与えてくれる唯一 の源であり、決まりきった日常業務の繰り返しに無上の喜びと安泰を見いだしている。「可能の王国は諸君1人1人の中にある」と生徒を激励する ものの、彼自身は決してその言葉に従おうとはしないのだ。しかし、そんなシモネット先生もトレバーの純真な心とアーリーンの必死な姿に接し、 次第にその固い殻を開き、2人の間にほのぼのとした感情が芽生え始める。そんな矢先に、彼女の夫が忽然と彼らの前に姿を現し、シモネット先生 は無言で彼らの家を後にする・・・  この映画はトレバー少年が「ペイ・フォワード」という急進的なアイディアを考え出し、発展させ、そして実践していく過程を縦軸として、4か月後にその運動の恩恵を受け、興味を抱き、源流を求めてラスベガスへと旅をする記者の話を横軸として描き、終わり近くでいつしか2つの物語が 巧みに織り合わさり、融合していく構成になっている。ここで歌い上げられているフランク・キャプラばりの希望と楽観主義に縁どられた人類救済 の観念は、世界中で日々繰り返されているおびただしい数の残虐非道な行為を考えるとき、余りポピュラーなものとはいえないだろう。実際、ハリ ウッドで製作される大衆の興味を引きつけるパワフルな映画の多くは、人類の暗部に照明を当て、我々の気づかないところで着実に進行しつつある 個人や社会の腐敗をさらけだしたものである。しかし、もちろん今日の社会がそうした風潮であればこそ、『ペイ・フォワード』といった作品はよ り際立ったものとして我々の目に写るだろうし、心の中に眠っていた何かを呼び覚ましてくれるかもしれないのだ。だが果たして、現実の世界で 「ペイ・フォワード」のような運動が大衆の間に根づき、世界へと広がっていく可能性はあるのだろうか。その答は言うまでもなく我々1人1人に かかっている。  監督は TV 映画での華々しい活躍の後、映画界に転じ『ピース・メーカー』(The Peacemaker, 1997)、『ディープ・インパクト』(Deep Impact, 1998)で大成功を収めた Mimi Leder 女史である。子供らしい純真な心と、大人の洞察力を持つトレバー少年を演ずるのは『シックス・センス』 (The Sixth Sense, 1999)での名演技によりアカデミー賞にノミネートされた Haley Joel Osment。トレバー少年の中にもう1人の自分の姿を映 し出す孤独な教師シモネットには『ユージュアル・サスペクツ』(The Usual Suspects, 1995)でアカデミー助演男優賞、『アメリカン・ビュー ティ』(American Beauty, 1999)で見事アカデミー主演男優賞を獲得した Kevin Spacey。そして自分の人生のために、愛する息子のために飲酒癖 をたち切ろうと悪戦苦闘するアーリーンを熱演するのは『恋愛小説家』(As Good As It Gets, 1997)でアカデミー主演女優賞に輝いた Helen Hunt だ。ハリウッドが最も期待する女性監督のもとに豪華キャストを揃えて製作された、観る者の魂を揺さぶる2000年を代表するワーナー映画の傑作である。
曽根田 憲三(相模女子大学教授)

■この映画の英語について

 この映画は、言葉が主役のような映画です。つまり、タイトルの Pay It Forward という語句が表すアイディアと行動がテーマなのです。"pay forward" という動詞句は、おそらくどの辞書にも載っていません。それは pay back がベースにあって作られた言葉だからです。中身は映画で じっくり見ていただくとして、このアイディアは、トレバー少年が考え出したものです。彼は seventh grade になったばかりです。日本でいえば 中学1年生。最初の社会科の時間に先生が、1年間の課題を出します。Think of an idea to change our world - and put it into action. とい うものです。トレバーは真剣にこの課題に取り組み、ユニークなアイディアを思いつき、身近な人を幸せにするために実行に移すのですが、これが やがて一種の movement(社会運動)にまで発展するのです。英語に関心を持つ者としては、この pay it forward という新語句が市民権を得るか どうかが、最大の興味ですね。もし、この映画がきっかけで、一般に使われるようになり、いずれ辞典に採用されるようになれば、まさしく私たち は、新語の誕生に立ち会ったことになるのです。
 英語の難しさは動詞句を含むイデイオムにあるといっても過言ではありません。そこでこの際、この映画に現れたその他のイデイオムの幾つかに 注目してみましょう。
 トレバーは pay it forward のアイディアを come up with(思いつく、考え出す)し、まず on the street(宿無し、仕事にあぶれた)の人を get a person on his feet(立ち直らせる、自立できるようにする)しようとして、自分が貯めていたお金をジェリーという男に与えます。ジェ リーはトレバーに pay back(お返しをする)しようとしますが、断られ、代わりにそれを pay it forward するように言われるのです。その他、 hang up(電話を切る)、rub one's nose in it(あてつける)、get the bounce(首になる)、look down on(〜を見下す、軽蔑する)、drop in (ちょっと立ち寄る)等々が出てきます。
 この映画の原作者は言葉にとても興味を持っているように思えます。"pay it forward" という造語が先にあって、この作品が書かれたのではな いかと思えるほどです。映画の中で言葉そのものが何度も話題になっています。トレバーの教師ユージーンは、中学1年生にはちょっと難しい言葉 atrophy、variegated を授業で用いて、辞書を引かせ、語彙を増やすように奨励しています。また、教養のない、アルコール依存症のトレバーの母 親は教師と話し合ったのち、自分に理解できなかった euphemism という語をこっそり辞典で引いて調べています。スピーチレベルの問題もこの映 画は考えさせてくれます。教師の言葉と、トレバーの母親に代表されるグループでは、かなり英語の質が違います。顕著なのは、いわゆる four letter words の使い方です。母親のグループの英語には shit、ass、bullshit、son of a bitch などが頻出しています。ユージーンは一度、わざ と卑猥な言葉 ass を使い「私がこんな言葉を使ったことを親に言ってはだめだよ」と言って、生徒を笑わせます。トレバーもテレビのインタ ビューという改まった場で、shit という言葉を選んで使っています。この2例は、スラングが持つ、活力ないしは香辛料的役割を示しているのです。
大塚 光子(相模女子大学教授)

■目次

1. An Assignment 宿題 ……………… 8
2. He’s My Friend 彼はともだち ……………… 24
3. Everything Sucks 何をやってもつまらない ……………… 38
4. This Isn’t a Date デートじゃない ……………… 56
5. Arlene’s Problem アーリーンの問題 ……………… 70
6. I Respect You 尊敬してるわ ……………… 84
7. It Didn’t Work 上手くいかなかったんだ ……………… 98
8. Ricky Comes Back 帰ってきたリッキー ……………… 112
9. I Forgive You 許してあげる ……………… 126
10. Blown Out the Candles 吹き消されたキャンドル ……………… 138

■コラム

ケビン・スペイシー ……………… 96
ヘレン・ハント ……………… 97
ミミ・レダー ……………… 110
学校の英語 ……………… 150

■リスニング難易度

評価項目 易しい(1) → 難しい(5)
・会話スピード
1 2 3 4 5
・発音の明瞭さ
1 2 3 4 5
・アメリカ訛
1 2 3 4 5
・外国訛
1 2 3 4 5
・語彙
1 2 3 4 5
・専門用語
1 2 3 4 5
・ジョーク
1 2 3 4 5
・スラング
1 2 3 4 5
・文法
1 2 3 4 5
合 計 14点

( 16以下 = Beginner, 17-24 = Intermediate, 25-34 = Advanced, 35以上 = Professional )