■この映画のストーリー
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『スチュアート・リトル』(Stuart Little,1999)は、これまで世界中の多くの子供たちに夢と希望を与え、感涙を誘ってきた『シンデレラ』や『赤づきんちゃん』同様に、心あたたまる現代のフェアリー・テールである。このチャーミングな映画の原作者であるアメリカのユーモア作家ホワイト(E.B.White,1899-1985)は、明らかに、われわれが住んでいる世界とは異なった夢の国を創造することに強い関心を抱いていたように思われる。このホワイトの豊かな想像力が生み出したおとぎ話をスクリーンに見事に再現することに成功したのは、ディズニーの大ヒット作『ライオン・キング』(The
Lion King,1994)でRoger Allens とともにメガフォンを握ったRob Minkoff である。
物語はジョージ少年の両親であるリトル夫妻が孤児院を訪れ、1人息子ジョージのために弟を養子に貰う日の朝から始まる。教室のドアを開けると、そこには多くの可愛らしい子供たちが元気よく飛びはねている。驚きと期待で胸を膨らませながら、無邪気に遊びに興じる子供たちを眺めていると、彼らのそばにスチュアートという名前のネズミがやって来て、子供たちの特徴を滔々と語り始める。彼の話を聞きながらリトル夫妻は彼の家族に憧れるいじらしさに心魅かれ、スチュアートを養子にすることにした。弟が欲しいと興奮ぎみに話していたジョージだったが、両親が連れて帰ったのが家なし子のネズミだったことを知り、大いに失望してしまう。リトル夫妻はスチュアートを家族の一員として大切に扱うものの、ジョージはかたくなに心を閉ざし、彼を弟として受け入れることを拒絶する。さらに困ったことにリトル家の飼い猫であるスノーベルも、このネズミに対して激しい嫌悪と敵意を抱いていた。なにしろスノーベルにとってスチュアートは単に食べられないネズミであるばかりか、リトル家の一員であることから、必然的に彼の主人となってしまったからである。つまり、スチュアートはスノーベルという猫をペットにもった世にも珍しいネズミということになるのだ。このことはスノーベルの猫としての誇りを著しく傷つけるばかりか、夜の裏町を我が物顔で徘徊する猫の悪党がどこかで語っているように「自然の掟に逆らった異常なこと」であり、それを許せば世界中の猫にとって深刻な事態を引き起こしかねない。スノーベルはこの屈辱的な状況を解決すべく街のボス猫スモーキーに泣きついた。
リトル夫妻がジョージとスチュアートの問題に頭を抱えている間に、2人の関係はふとしたことがきっかけで急速に改善の兆しを見せ始めていた。スノーベルに追われてジョージの部屋へ逃げ込んだスチュアートは、未完成のミニチュアのヨットを目にし、ジョージを励まし、協力して完成させた。そしてセントラルパークで開催されたヨットレースに参加して、事故で壊れたリモコンに代わってヨットに乗り込み操縦し、悪戦苦闘の末に並みいる強敵を抑えて優勝したことで、2人の間に兄弟としての絆が芽生える。だが、スチュアートが生まれて初めて家族の幸せを実感し、その幸福を噛み締めていたまさにそのとき、スチュアートの両親と名乗るネズミの夫婦がリトル家の玄関のベルを鳴らした。リトル夫妻は行儀の悪い父親ネズミと派手な服装の母親ネズミを何か怪しいと睨むものの、確たる証拠がない。おまけに人間にはスチュアートの心の奥にポッカリ空いた隙間を埋めることなど到底できないと言われ、泣く泣く彼をネズミ夫妻に引き渡す。やがてスチュアートの本当の両親は彼が幼いころに、積み上げられた缶づめの崩落事故で死亡していたことが判明する。この手の込んだトリックはスノーベルと悪党猫どもが企んだ罠だったのだ。リトル一家はすぐさま警察に捜索願いを提出し、自らもチラシを作ってスチュアートを捜し求めて街中や公園へと飛び出していった・・・
スチュアートのさまざまな冒険を通して家族について考えさせるこの映画は、その根底に多様性の受容というアメリカ社会ならではの極めて重要なテーマが流れている。言うまでもなく、アメリカは多種多様な民族や文化から成り立っている国である。アメリカインディアンを始めとし、抑圧や貧困を逃れ、また夢を求めて旧大陸から渡ってきた移民たち、奴隷船で大西洋を越えて運ばれてきたアフリカ人、南からのメキシコ人、そして西からのアジア人たちがそれぞれの特色をもったまま、多元的複合的に幾多の共同体を構成し、国家を形成しているのだ。このように世界の人種が集まった社会だけに、さまざまな民族がもたらす葛藤や社会的軋轢は日常茶飯事であり、であるがゆえに相互理解や融和のための知恵が社会への最大の貢献の一つでもある。リトル夫妻の種を越えた養子縁組という一見無謀とも思える行為は、だから異人種間の接触や融合の人類史上最大の実験場たるアメリカという国家が抱えている深刻な課題への重大な取り組みの象徴と考えることができるだろう。リトル家の祖先の名前Jedediah
Littleから察せられる通り、彼らが過去2000年近くにわたってヨーロッパ各地で抑圧と差別の犠牲となり、放浪の生活を余儀なくされ、自由と平等を建国の精神とするアメリカ合衆国にやっと安住の地を見いだしたユダヤ人の末裔であることからもそれは明らかだ。偏見、差別、抑圧の犠牲者として世界で最も苦しんできた民族の象徴としてのリトル一家、とくに将来の社会を担う幼いジョージは、自分たちの民族にふりかかった悲劇を二度と繰り返さないためにも、自分と異なるからとの理由だけで人を排除すべきではなく、違いを乗り越え、理解し、受容することを学び、規範を示さねばならないのである。物語の終わり近くでセントラルパークの樹の上に追いつめられたスチュアートが「家族であるためには似ている必要はないし、互いに好きである必要もない」と、迫ってくるのら猫たちに語っているように、家族そして社会の構成要員たるわれわれは互いの異なる文化、異なる身体的特徴を認めたうえで、それを受け入れる責務があるのだ。このことは多様な人種や文化のなかで融合をめぐっていくたびもの挫折を経験してきているアメリカだけに、いっそう強い実感となって現てくるのではないだろうか。
スマートでユーモアあふれるセリフを駆使してホワイトの絵物語を脚色し、子供から大人まで安心して楽しめる見事な作品に作り上げたのは、幼い頃から天才ぶりを発揮して16歳で既に45本の短編映画を作っていたという『シックス・センス』(The
Sixth Sense,1999)のM.Night ShyamalanとGreg Brooker である。また、Back to
the Futureシリーズでお馴染みのMichael J. Foxがスチュアートの声を演じ、CGのネズミに生命の息吹を吹き込み、キャラクターに鋭い切れ味と存在感を与えていることも忘れてはならないだろう。ソニー・ピクチャーズが自信をもって世に送り出し、クリスマス期に興行収入で見事トップの座に輝いた、1999年を代表するファミリー映画の超娯楽大作である。
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曽根田 憲三 |
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■この映画の英語について
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今日、たまたまテレビをつけたとたんに、2度もこの映画の宣伝を見てしまいました。この夏休みに、『スチュアート・リトル』を見よう、というものです。つまり、子供とその家族が一緒に楽しめる、お薦め映画というわけです。このことから、この映画の内容はともかく、「英語」については、ほぼご想像がつくでしょう。そうです。「発音」、「文法」、「語彙」どれを採っても、健康ですがすがしく、模範解答的です。もちろん、現実の生活に完璧はあり得ないし、不自然ですから、「学校文法」通りといったことはありません。主語の省略、口語表現、スラングなども、適当に入っていて、authenticな英語です。しかも「子供に見せたい」映画ということは、すなわち、アメリカの大人が子供に覚えて欲しい英語が使ってあるはずです。私たちには、最高の英語教材です。センテンスも短く、長い台詞もほとんどなく、覚えるといい英文があふれていますから、初心者にはもちろん、かなり、自信のある人まで様々に利用できます。マウスの声が、マイケル・J・フォックスというのも、うれしいですね。アメリカの良心を代表するリトル家の人々の英語と、悪役の猫たちの英語の違いに注目しましょう。猫どもの「英語」は、演技力とあいまって、なかなか迫力があります。口語形や、悪い言葉が混じっていますが、小ギャング団の言葉として、楽しみましょう。まず、学習すべきは、マウスのスチュアートもその一員である「リトル家」の人達の英語です。リスニングの練習は、リトル一族の英語に集中してみたら、どうでしょうか。この映画のキーワードはfamilyとfairy
talesでしょう。アメリカでは、人種を越えてのadoptionが盛んですが、この映画では、speciesを越えて、adoptionがおこなわれ、familyの一員として迎えます。人間の弟を期待していたジョージが、マウスのスチュアートとreal
time,brother timeを持ち、ネズミをa member of the familyとして、認めるには少し、時間がかかります。リトル家の人達のことばは、あたたかく、思いやりに満ち、しかし、時に厳しく、感動的で、どの表現も記憶すべきものです。映画の冒頭で、スチュアートが夫妻に初めて会ったとき、夫妻の会話を聞いて、What's
wonderful is that you both know what the other one is gonna say
before you even say it.といいます。すると、リトル氏が、Yes, well, that happens when
you've been together as long as we have.と答えます。この夫婦間の会話のリレーは、私たちも参加してみても面白いと思います。どんな、言葉が次に来るのか、guessしてみませんか?ジョージとスチュアートは、短期間で、そういう関係を作り上げたことが、最後のシーンで分かります。父親が息子を励ます言葉、I
know how worried you are about losing, believe me. But you know
what we say? The thing that really matters is to never stop trying.
Okay?...That's the spirit. も感動的です。ジョージはこの父親の言葉を覚えていて、次の試練の時に思い出すのです。これは映画のメッセージでもありますが、私たちの英語学習にもあてはまりますね。
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大塚 光子 |
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■目次
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はじめに
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……………… |
10 |
イントロダクション
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……………… |
12 |
カラーシナリオ
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……………… |
28 |
1. |
It's Today! |
今日だ! |
……………… |
30 |
2. |
Washing Up |
洗濯 |
……………… |
52 |
3. |
A Lot of Littles |
リトル一家 |
……………… |
70
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4. |
A Friend |
ともだち |
……………… |
90 |
5. |
Race Day |
レース当日 |
……………… |
122 |
6. |
Raggie&Camille |
レジー&カミーラ |
……………… |
148 |
7. |
I'm a Little |
僕はリトルだ! |
……………… |
168 |
8. |
A Search |
捜索 |
……………… |
188 |
9. |
He's a Family |
彼は家族だ |
……………… |
210 |
10. |
End of a Fairy Tale |
おとぎ話の最後 |
……………… |
224 |
クレジット
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………………
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238 |
映画製作者
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………………
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240 |
出演者
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………………
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248 |
クレジット・ロール
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………………
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251 |
おわりに
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……………… |
255 |
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■リスニング難易度
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評価項目
| 易しい(1) → 難しい(5)
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・会話スピード
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・発音の明瞭さ
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・アメリカ訛
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・外国訛
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・語彙
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・専門用語
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・ジョーク
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・スラング
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・文法
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合 計 |
14点 |
( 16以下 = Beginner, 17-24 = Intermediate, 25-34 =
Advanced, 35以上 = Professional )
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