■この映画のストーリー
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病院からの緊急電話で呼び出しを受けたシカゴの著名な外科医キンブル博士が手術を終えて帰宅すると、妻のヘレンが二階の寝室で倒れていた。部屋の片隅に身を潜めていた犯人と思しき片腕の男と激しくもみあうが、まんまと逃げられてしまう。急いで部屋に駆け戻り、ヘレンを腕に抱え込んだが、頭蓋骨を砕かれて虫の息の彼女は、そのまま彼の両腕の中で静かに息を引き取った。捜査を担当したシカゴ市警はキンブル博士を妻殺しの容疑で逮捕、そして起訴した。その瞬間に彼の世界は、地面に落ちて瞬間に消え失せていく、北風にあおられ舞い散る粉雪のように脆くも崩れ、手の届かない遠い彼方へと流れ去って行くのであった。タキシ−ドを脱がされ、安っぽい囚人用の衣服を着せられて、薄暗い拘置所ヘ放りこまれたキンブル博士はきっとそう感じていたに違いない。その目でしかと目撃した片腕の男が犯人だという彼の主張は受け入れられず、逆に、家に人が無理に押し入った形跡が無いこと、彼以外の指紋が検出されていないという事実、そして何よりもヘレンが凶悪犯に襲われている最中に助けを求めて警察に緊急通報した「リチャ−ド。彼が私を殺そうとしている」との消えいるような最後の言葉が法廷の空気を決定的に左右してしまう。キンブル博士はこうした物的証拠からメナ−ド州立刑務所に拘置の上、薬物注射による死刑の判決を下されてしまうのだ。
だが、死刑執行の場へと古いバスに揺られて身柄を移される途中、異変が起きた。キンブル博士とともに護送されていた囚人仲間が脱走を試みて暴れ出したのである。操縦不能となったその護送車は夜の帳に包まれた山道を左右に大きく揺れながら、驀進してきた列車に激突。危機一発の所で窓から抜け出したキンブル博士は、本能的にその場から逃げだした。崖っぷちを這い、霜枯れした落葉の敷き詰められた雑木林をひた走りに走る。勿論、そんな時の彼の思いはただ一つ、愛する妻を殺した真の犯人を見つけ出し、自らの身の潔白を証明したいということだ。とはいえ、彼のこの逃亡が官憲の執拗な追跡からの逃走と、極限に近い孤独と恐怖の苛酷な旅の始まりを意味していたことは言うまでもない。髭を剃り、髪型を変え、素性をひた匿しに匿して、冷徹な法の執行者たる連邦保安官補ジェラ−ドの非情な追跡をかわしながら、藁をも掴む思いでかつての職場に舞い戻ってきたキンブル博士。そして、そんな彼をまるで嘲笑うかのように運命の悪戯は驚嘆すべき真実を用意して待ち受けていた…。
1963年9月にアメリカのお茶の間に登場し、追う者と追われる者とのスリリングな物語の展開で平均視聴率45%という驚異的な数字を残した伝説のテレビシリ−ズ『逃亡者』のリメイクであるこの作品で孤独の漂泊人、逃げるキンブルを演ずるのはハリウッド映画のヒ−ロ−役を独り占めするハリソン・フォ−ド、そしてキンブルの追跡に執念を燃やす保安官補ジェラ−ドには『JFK』で大統領暗殺の黒幕を熱演したトミ−・リー・ジョ−ンズがあたっている。30年という時の流れを越えて銀幕の巨大な画面に蘇った二人の、全知全能を傾けた激しい男の戦いはきっと見る者の心に感動の嵐を巻き起こさずにはおかないだろう。
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曽根田 憲三 (相模女子大学教授) |
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■この映画の英語について
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導入部から即始まるスリルとサスペンスにぐいぐい引き込まれ、主人公に感情移入しながら見ていると「あっ」という間に終わってしまう映画である。改めてシナリオを読むと、それほど難しそうには見えない。医学用語や警察用語を少し丁寧に押さえておけば「楽勝」という第一印象を持つ人が多いのではないだろうか。でも少し待っていただきたい。確かに短い文が多い。俗語も比較的少なく、なまりと言えるほどの非標準形は発音面でも見当らない。あえて言えば
have got の代わりに got を用いて What do you got? などと言う省略形が数回現われる程度である。しかし目をつぶるなり、カセット・テ−プに音だけを取って聞くなりしてみると、分からない部分が意外と多いことに気づく。なぜだろうか。
第6章で、Kimble が病院で小さな男の子のカルテを書き換えて命を助けてあげる場面を例に取って考えてみよう。大丈夫か、母親はどこにいるのか、などと少年に問いかける
Kimble の台詞は、How (are) you doing, champ? / How (are) you feeling?
/ Does it hurt (when) you breathe? / (Is) she home? など、( )に入れた単語が極端な弱形になり、ほとんど聞こえない。彼が少年の命を結局は救ったのだと
Gerard に教える女医の言葉も (He) saved (his) life. とキ−ワ−ド以外は聞こえづらい。発音が弱化する単語は原則として決まっており、冠詞・前置詞・人称代名詞・所有形容詞・関係代名詞・接続詞・助動詞・be
動詞などである。これらは聞こえなくとも想像力で補うことが可能な単語でもある。実は我々は母国語を話す時にはたいていこのように分かりきった単語は適当に発音しているのである。上記の
(have) got にしても弱化の結果、省略が起きたに過ぎない。英語を外国語として学ぶ以上は、意識して弱形を自分の文法力・文脈把握力・常識などで補いながら聞いてゆく必要がある。
さて、このシナリオの中で Casey Jones, Wyatt Earp, Peter Pan が比喩的に用いられていることに気づいたであろうか。ネイティブにとっては効果的な比喩になったとしても、我々にとっては時として分かりづらいことがある。いつも必ず注釈付きの好運に恵まれるとは限らない。また
St. Patrick's Day は何月何日の祭日だろうか。知っていれば Kimble が事件の日からどのくらいつらい思いをしていたかが分かる。あるいは判決の速さ
に驚くかも知れない。このような、固有名詞や制度、習慣などに関する雑多な情報も、単語や熟語を押さえるのと同様に大切であり、また特殊辞典を座右に置き、ぜひ自分で情報を増やしていっていただきたい。
最後に、たまにはト書の部分にも目を向けてみよう。churning water といったら皆さんは一体どんな場面を想像するだろうか。
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吉田 雅之 (神奈川県立外語短期大学専任講師) |
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■目次
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1. |
殺人 |
A Murder |
……………… |
7 |
2. |
逃亡 |
A Near Escape |
……………… |
21 |
3. |
逃亡犯追跡 |
Manhunt |
……………… |
31 |
4. |
コープランド |
Copeland |
……………… |
47 |
5. |
逃走中 |
Back On the Run |
……………… |
56 |
6. |
マザーテレサ |
Mother Teresa |
……………… |
73 |
7. |
聖パトリック祭りのパレード |
The St.Patrick's Day Parade |
……………… |
84 |
8. |
片腕の男 |
The One-Armed Man |
……………… |
94 |
9. |
真実を求めて |
In Search of the Truth |
……………… |
109 |
10. |
プロヴァシックスキャンダル |
The Provasic Scandal |
……………… |
120 |
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■コラム
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アメリカの制番裁判制度について |
……………… |
20 |
死刑を言い渡されるまで |
……………… |
46 |
It'll be all right |
……………… |
55 |
州警察とFBI |
……………… |
72 |
聖パトリック |
……………… |
83 |
レプラコーン |
……………… |
93 |
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■リスニング難易度
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評価項目
| 易しい → 難しい
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・会話スピード
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・発音の明瞭さ
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・アメリカ訛
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・外国訛
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・語彙
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・専門用語
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・ジョーク
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・スラング
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・文法
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合 計 |
18点 |
( 16以下 = Beginner, 17-24 = Intermediate, 25-34 =
Advanced, 35以上 = Professional )
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