映画『交渉人』から学ぶ
ディベート・英語交渉術
THE NEGOTIATOR


著者 松本道弘
A5判 336頁、ISBN4-89407-259-9
本体価格=1,800円(税別)
2001年(平成13年)7月23日 初版発行


シカゴ市警西地区No.1の人質交渉人ダニーは、はめられて殺人罪に問われることに。状況の打開を狙って人質を取って立てこもったダニーは、交渉相手として東地区No.1の人質交渉人クリスを指名する。知的な英語での交渉に次ぐ交渉。あなたの英語力は付いてこられますか?

書 籍 紹 介
 
映 画 紹 介
書 名 スクリーンプレイ
「THE NEGOTIATOR
          交渉人」
製 作 1998年
著 者 松本 道弘 会 社 Warner Bros
仕 様 A5版、336ページ 監 督 F.GRAY GRAY
発行日 2001年7月23日 脚 本 JAMES DeMONACO & KEVIN FOX
出版社 株式会社 スクリーンプレイ 出 演
SAMUEL L.JACKSON
定 価 本体1,800円(税別) KEVIN SPACEY
ISBN 4-89407-259-9 DAVID MORSE

 

■この映画のストーリー

 映画『交渉人』の全編を通じて貫かれている理念は、徹底したリアリズムだ。緊迫したストーリーの展開は、例えば、突入前の状況把握のために、マイクロカメラで室内の状況を把握しようとする包囲側とそれを阻止しようとするダニーの攻防、弾道がそれないようにまずガラス窓を爆破してから狙撃を行う SWAT 部隊の描写など、リアルに表現された細部があればこそ生きてくる。
 また、実際にスクリーンに現れる部分のみでなく、それらの1つ1つの行動の背後にある「犯罪者との交渉のマニュアル」までもが、実際に警察組織で使われているものに基づいている。撮影に当たっては、シカゴ市警察当局や、技術アドバイザーとして参加した2人の元人質交渉人から多くの助言を得ている点も、そのリアルさをさらに際立たせている。
 もちろん、凶悪犯罪で犯人との交渉を担当する「交渉人」も、空想上の職業などではなく実際に存在している職業である。ハリウッド映画の主人公たちが陥りがちな、非現実的な無敵のスーパーヒーローのような主人公は決して出てこない。
 映画の中では特に言及されていないが、設定ではダニーやクリスが所属しているのは、シカゴ市警察の HBT 班という部署。FBI の交渉担当官やフリーランスなど、様々な立場の「交渉人」がいる中で、あえて市警の HBT 班を選択したところにも、制作陣のクロウトさを見る思いがする。75人の「交渉人」と、実力での排除を担当する100人近くの SWAT 隊員によって構成される HBT 班は、警察機構の中のエリート部隊であり、なによりも最も実戦に投入されることの多い「交渉人」たちなのである。また、HBT 班の「交渉人」たちは、全員が刑事であることも特徴の1つ。実際に現場で容疑者の取り調べの経験を積み、犯罪者たちの取り扱いにも慣れている刑事たちは、凶悪犯罪の犯人たちとの交渉にも力を発揮するのである。
 こうした正確無比なリアリズムに裏打ちされた脚本は、まるで自分が人質の1人になったかのように、観るものを物語に引きずり込むことに成功している。
 本作の監督、F・ゲイリー・グレイは、フリーのカメラマンからミュージックビデオの監督を経て映画監督になった新人監督。MTV 時代には、ホイットニー・ヒューストン、スティービー・ワンダー、アイス・キューブ、クーリオなど、大物アーティストのビデオクリップを数多く手がけ、MTV ミュージックビデオ賞のビデオ・オブ・ザ・イヤーを含むさまざまな賞を計16回も受賞。ミュージックビデオ界の第一人者としての評価を受けている。映画作品としては、これまでに『フライデー』(Friday, 1995)、『セット・イット・オフ』(Set It Off, 1996)の2作品を手がけ、それぞれミドルヒットを飛ばしている。ハリウッド期待の若手監督だ。  今回、サミュエル・L・ジャクソンとケビン・スペイシーという、個性派の、あえて言えばアクの強い2人の大物俳優をキャストに迎えたうえ、ほぼ全編が内務捜査局のオフィスとニーブラムの自宅という2つの部屋の中だけで展開されるという難しい脚本を、見事に統一のとれた1本の作品に完成させてその実力を証明したゲイリー監督は、今後も目の離せない存在になっていくことだろう。

■この映画の英語について

 この作品は「交渉」映画だけあって、会話がとても多い。特にサミュエル・L・ジャクソン演じる主人公のダニーは、セリフの量もひときわ多い。その上、彼は感情的に話すシーンも多く、話すスピードが速いため、聞き取りにくい部分もある。彼の黒人独特の表現、アクセントにも慣れるのに少々時間がかかるだろう。また、彼のセリフには全体を通し、一般的には使用しない方がいい4文字言葉(four letter words)が多くあるので注意しなければならない。
 ただ、彼の話し方にはリズムがあり、セリフが理解できるようになると、引き込まれるような魅力さえ感じるだろう。映画の中にも、ダニーが自分を捕らえようとしている警察仲間たちに対し、マイクを通じて思い出話を語るシーンがあるが、同情心を引き出されて、ダニーを射殺せよ、という上からの命令さえ聞けなくなってしまった者もいる。
 それに対するケビン・スペーシー演じるもう1人の主人公、クリスは、口調も柔らかく、リラックスしたムードを作り出している。ダニーとは違った方法で交渉を進め、彼が興奮して詰め寄るときにはひいてなだめたり、一方的な要求をつきつけてくるときは、電話さえ「忙しい」といって切ってしまう。
 全くタイプの異なる2人が繰り広げる熾烈な「交渉」は、まさにプロだ、と思わせる強い説得力と魅力がある。
 この2人の主人公、ダニーやクリスが所属している HBT 班の頭文字はそれぞれ、Hostage(人質)、Barricaded(ろう城)、Terrorist(テロリスト)を意味しており、これらの凶悪犯罪に専門的に対応する部隊を意味している。この物語は、まさにHBTが意味する現場で繰り広げられるため、多くの警察専門用語や、犯罪で使われる言葉が登場する。日常生活では使わない言葉だが、アメリカでは犯罪現場に遭遇する確率は非常に高いことを考えると、知っておいた方がいいだろう。Freeze! / Get your hands up! / On the ground! など、警察が犯人に対し、また、犯人が一般人に対し、緊迫した状況で使うセリフ。どれも重要なので、覚えておこう。
 会話の中には、アメリカの文化を背景にした比喩やジョークも多く登場する。「お前のズボンかっこいいな」と言ったときには、アメリカのファッション評論家の Mr. Blackwell を使って返答、「俺をいじめるなよ」というときには、Charlie Brown という曲の歌詞を引用、映画の話になれば、クラッシク映画をケーブルテレビチャンネルの AMCを話題に出し、「解放せよ」と語るところでは、聖書からモーゼのセリフを引用している。また、映画『シェーン』の話は、1度だけでなく、ラストの重要なシーンでもまた話題にあがっているので、一度見ておいてもいいだろう。これらの引用は会話の中では、どれも突然説明なしに使われるため、日本人である私たちには理解しづらい箇所も多い。本書ではそのどれにも解説を加えているが、これらの意味がわかると、会話の妙がさらによくわかるだろう。
秋好 礼子

■目次

まえがき
映画『交渉人』から学ぶプロの英語交渉術 ……………… 7
序  章
なぜ今、英語交渉術なのか ……………… 15
一 章
役に立つ交渉英語 ……………… 19
the wrong man's worst enemy 敵にしたら、一番恐ろしい相手 ……………… 20
I want my wife. I want her up here. 女房の野郎をここへよこせ ……………… 22
Fair enough! いい覚悟だ ……………… 23
Too bad we got stuck in here. こんな日に、もったいないぜ ……………… 24
It was a team effort. みなさんのおかげです ……………… 25
You get it. ドアに出てよ ……………… 26
He's one of ours. 仲間だ ……………… 27
You know me. そんな男ではないことは知っているはずだ ……………… 28
I'm being set up. はめられているんだ ……………… 29
Give me status. どうなっているんだ ……………… 30
Yes, I am listening to you. いいや、ちゃんと聞いている ……………… 32
Wrong answer! バツ ……………… 34
Watch yourself! 言葉に気をつけろ ……………… 35
Unproductive!? 時間がもったいない ……………… 36
bad cops 悪徳警察官 ……………… 38
I got lucky ついていたんだ ……………… 41
Sort of. まあね ……………… 42
I believe you. 言っていることは信じるよ ……………… 44
as of right now ただ今から ……………… 46
Don't you (fucking) count on it. 甘く見るなよ ……………… 47
be itching to walk in 突入したくてウズウズしている ……………… 48
A threat? 脅しかね ……………… 49
二 章
TA(交流分析)から学ぶ交渉英語 ……………… 53
I'll give you one day to make a deal. 取引するまで一日は待ってやろう ……………… 54
Just look me in the eye. オレの眼を見ろ ……………… 56
Are you trying to talk me down? やめさせようってのか ……………… 58
This isn't helping you. きみのためにならんぞ ……………… 58
I'm very serious! マジだ ……………… 60
That's debatable. さあ、そりゃどうかな ……………… 61
And that.... I cannot take. くやしい ……………… 62
The eyes can't lie. 眼は嘘をつかない ……………… 64
They're all tell-tale signs. You can't cheat. 全てのしぐさは意味がある。 騙せないぞ ……………… 66
I'll give you another hostage. 人質を一人解放してやる ……………… 68
This was a bluff?! ハッタリだったのか? ……………… 70
I'm going to take you down myself. オレの手でトドメを刺してやる ……………… 72
You got this all wrong. そりゃ完全な思い違いだ ……………… 74
三 章
ディベートで交渉人の嘘が見抜けるか ……………… 81
四 章
映画から学ぶ、使えるディベート英語 ……………… 93
circumstantial 重要でない ……………… 94
I know the rules of engagement. 取り込みのルールは知っている ……………… 96
Get all the facts, huh? 真実を寄せ集めるってのか ……………… 98
First, my list of demands. まず、私の要望を述べる ……………… 103
That's not why I'm here. それがぼくの仕事じゃない ……………… 104
get too close to the truth 真実を知り過ぎる ……………… 106
Why the hell is this taking so long? どうしてこんなに時間がかかるの ……………… 107
You got no proof. 証拠がないじゃないか ……………… 108
What if you're wrong about me? 思い違いだったら? ……………… 110
Only, I still have the evidence. 違いは、ここに証拠があることだ ………………

112

Well, I can't give you what I don't have. ないそでは振れんね ……………… 114
五 章
字幕なしで映画英語を楽しむ方法 ……………… 119
六 章
映画英語に見る give と get の周辺 ……………… 127
終 章
私はこうして映画から実用英語を学んだ ……………… 135
あとがき
……………… 144

■THE NEGOTIATOR

1.
Hostage Crisis
人質事件 ……………… 158
2.
The Newly Weds
新婚 ……………… 180
3.
Framed
陰謀 ……………… 198
4.
Stand Off
衝突 ……………… 214
5.
The Peacemaker
仲裁人 ……………… 232
6.
Dealing With Hostage
人質 ……………… 250
7.
Evidence
証拠 ……………… 268
8.
Trust
信頼 ……………… 282
9.
Busted
急襲 ……………… 298
10.
Proven Innocent
無実の証明 ……………… 318

■リスニング難易度

評価項目 易しい(1) → 難しい(5)
・会話スピード
1 2 3 4 5
・発音の明瞭さ
1 2 3 4 5
・アメリカ訛
1 2 3 4 5
・外国訛
1 2 3 4 5
・語彙
1 2 3 4 5
・専門用語
1 2 3 4 5
・ジョーク
1 2 3 4 5
・スラング
1 2 3 4 5
・文法
1 2 3 4 5
合 計 31点

( 16以下 = Beginner, 17-24 = Intermediate, 25-34 = Advanced, 35以上 = Professional )