■この映画のストーリー
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上空からのカメラが大空を舞う鷲のようにオーストリアのアルプスの壮大な峰を捉え、山麓に広がる静寂に包まれたおとぎの国のような美しい森や湖の点在する村々を映し出し、その幻想的な風景が一望できる高原へと穏やかに降り立った時、一人の若い娘がクローズアップされる。彼女は何処からともなく聞こえてくる小鳥のさえずりにも似た清らかな声で、緑の草原を独り占めしながら、楽しげに
The Sound of Music の歌を歌い出すのだ。彼女の名はマリア、高原の麓の修道院の見習い修道女である。歌に熱中する余り、また祈りの時間を忘れて修道院に駆け戻ったマリアに、院長は家庭教師としてザルツブルク行きを命ずるのだった。初めての体験で不安が一杯のマリアは道すがら
I Have Confidence を自らに歌い聞かせながら、トラップ家へとやって来る。家庭教師嫌いの16歳の娘リーズルを筆頭に5才のグレーテルに至るまで7人もの扱いにくい子供たち、しかもこれまで11人もの家庭教師がことごとく手を焼き、中にはたったの二時間で逃げ出した者もいると聞かされて一瞬怯むが、激しい雷雨がきっかけで子供たちと仲良しに。元海軍大佐の父親の軍隊風の厳しい躾けが原因で、歌声は愚か、子供らしい笑顔も忘れた子供たちを外へ連れ出しては歌を教え、木登りやボート遊びを堪能させる。
暫くぶりに、婚約者の男爵夫人を伴って自宅に戻って来たトラップ大佐はそんなマリアの教育方針を目の当たりにして激怒するが、男爵夫人を歓迎して歌う子供たちの姿を見た時、彼は胸に熱いものが込み上げてくるのを禁じ得なかった。数日後に開かれた男爵夫人歓迎のパーティで大佐とマリアは踊った。大佐の手を取り、大佐の腕に抱かれながらフロアを滑り、宙を舞うマリア。だが、大佐の目とマリアの目が会った時、マリアはもうそれ以上踊ることは出来なかった。頬を紅潮させ、自分の部屋へ戻った彼女は、一枚の紙切れにメモを残して、密かに大佐の家を後にするのだった。修道院の暗い部屋にこもったきり、誰とも口をきこうとしないマリアに院長は
Climb Ev'ry Mountain を歌って、自らの努力で人生を切り開いていく必要性を説いて聞かせる。マリアが大佐の家を再び訪れた時、大佐の心が既に自分から離れていることを察知した男爵夫人は彼のもとを去り、マリアは大佐と結ばれた。だが、この時期ヨーロッパではナチス旋風が吹き荒れ、オーストリアはナチス・ドイツに併合されてしまった。祖国を限りなく愛する大佐は苦悩の末、亡命を決意する…
オーストリアからアメリカへ亡命して、トラップ・ファミリー合唱団を結成した一家の実話をモデルにして作られたミュージカルで、1959年11月にブロードウェイで幕を上げてから1443回にも及ぶ公演を記録した『サウンド・オブ・ミュージック』を、『ウエスト・サイド物語』(West
Side Story, 1961)でミュージカルの大家としての地位を獲得したロバート・ワイズ監督が映画化したものである。大衆に訴えかけるために作品にもっと社会性を持たせる必要性を痛感した彼は、ヨーロッパ制覇の理念のもとに次々と隣国に魔の手を伸ばしていったナチス批判を強調した。想像を絶する困難と恐怖を乗り越えて自由の国アメリカへ脱出するという『カサブランカ』(Casablanca,1942)ばりのドラマ仕立てを用意することで、勇気と自由への憧れを見事に描くことにも成功したと言えるだろう。勿論、ワイズ監督がこの作品で『ウエスト・サイド物語』に続き二度目のアカデミー賞受賞に輝いたことは言うまでもない。
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相模女子大学教授 曽根田 憲三 |
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■この映画の英語について
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このミュージカルの名作では、少し堅苦しいスタイルになっているのは、尼さんたちのやりとり、尼僧院長、7人の子供たちの父親である退役大佐、ナチの手先の役人などが話す言葉などで、それ以外は全篇を通して平易な会話英語が使われている。まず出だしのところで、年よりの尼さんたちが交わす言葉はかなり鹿爪らしい響きだが、若い尼さんたちが加わってコーラスを歌い出すと、普段使われている英語と変わらなくなる。Julie
Andrewsが初めから終わりまでふんだんに歌ってくれる Rodgers & Hammerstein の歌曲でも、歌詞として使われている用語は同様に易しい日常の単語だ。
舞台がオーストリアなので、俳優たちの発音もヨーロッパ風のイギリス英語の発音になっている。Wise監督はアメリカ人だが、主演のAndrews
は英劇畑出のイギリス人で、My Fair Lady のEliza 役もやったことがある。厳格すぎる父親役のChristopher
Plummer もShakespeare劇の経験のあるカナダ人で、役柄に相応しく軍人調の几帳面な話し方をしている。
AndrewsがTrapp家の家庭教師に着任して最初の食卓についた場面で、Plummerが泣き出した娘に向かってWhat is
the matter, Marta?(どうしたんだね、マルタ?)と尋ねるが、これは日常頻繁に使われる表現で、アメリカ人が早口に言うと「オッツマーラ?」のように聞こえる。What
isはWhat'sとつづまり、matterが典型的なアメリカ英語の発音のくせで、[m¢t§r] でなく [m¢d§r] になってしまうのだ。大佐の発音は舌先を上歯の後ろに叩き付けて、はっきりと「タ」と言い、その後に
[r] の音を出さずに切りつめて言っている。全部で「ホ ワト ・イズ・ザ・マタ、マータ」のように、ここの音を略さないできちんと調音している。この少し後で、this
wonderful new world(この素晴らしい新世界)という時でも、wonderfulをアメリカ人式に「ワナ フウ」としないで「ワンダフル」と[d]をはっきり出しているのである。日本人としては、イギリス英語のはっきりしたふやけない発音に従った方が得策だと、私個人としては考えているので、この作品で聞かれる英語の発音は特に皆さんに勧めたい。
ミュージカルという性質からして、長い会話のやりとりはないが、日常の表現で覚えておきたいものが沢山ある。忘れがたい多くの名曲や息を飲むような美しい風景のカメラワークと共に、私たちの会話に役立つ表現を記憶して、この名作を楽しもうではないか。
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青山学院大学教授 池田 拓朗 |
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■目次
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1. |
Maria |
マリア |
……………… |
8 |
2. |
The Governess |
家庭教師 |
……………… |
26 |
3. |
My Favorite Things |
私のお気に入り |
……………… |
44 |
4. |
Do Re Mi |
ド・レ・ミの歌 |
……………… |
66 |
5. |
Baroness Schraeder |
シュレーダー男爵夫人 |
……………… |
78 |
6. |
A Yodeler's Melody |
ヨーデル |
……………… |
98 |
7. |
A Painful Goodbyee |
つらい別れ |
……………… |
120 |
8. |
Searching for a Dream |
夢を探して |
……………… |
140 |
9. |
The Anschluss |
オーストリア併合 |
……………… |
164 |
10. |
Edelweiss |
エーデルワイス |
……………… |
178 |
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■コラム
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マリア・フォン・トラップの生涯 |
……………… |
42 |
合理と狂気 |
……………… |
64 |
『サウンド・オブ・ミュージック』の音楽 |
……………… |
138 |
被害者か加害者か |
……………… |
162 |
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■リスニング難易度
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評価項目
| 易しい(1) → 難しい(5)
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・会話スピード
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・発音の明瞭さ
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・アメリカ訛
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・外国訛
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・語彙
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・専門用語
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・ジョーク
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・スラング
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・文法
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合 計 |
13点 |
( 16以下 = Beginner, 17-24 = Intermediate, 25-34 =
Advanced, 35以上 = Professional )
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