■この映画のストーリー
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ドロシーという名の1人の少女が、カンザスの農場でヘンリーおじさんやエムおばさんたちと暮らしていた。ある日、彼女は愛犬のトトが近くの意地悪な農園主、ミス・ガルチにひっぱたかれたといって泣きべそをかきながら帰ってきた。おじさんやおばさんをはじめ、農場で働くハンクやヒッコリー、それにジークに訴えるが、仕事に追われて誰も相手にしてくれない。悲しさと寂しさのあまり、空のかなたに目をやりながら、悩みも苦しみもないどこか遠い素敵な国を夢見ていると、ミス・ガルチが保安官の許可証を持ってトトを捕まえにやってきた。ドロシーの必死の嘆願にもかかわらず、トトは小さな籠に押し込められて連れて行かれる。可哀想にきっとトトは殺されるに違いない。ドロシーが込み上げてくる悲しみに、ベッドに顔を押し当てて泣いていると、なんとトトが逃げ戻ってきたではないか。とっさに家出を思いつくと、ドロシーは身のまわりのものを急いでバスケットに詰め込み、トトを連れて家を飛び出した。
殺伐とした風景が果てしなく広がる埃りっぽい小道をあてどもなく歩いていると、路傍に馬車をとめて休んでいるマーベル教授と名乗る占い師に出くわした。水晶球を覗くこの人物に家出を見抜かれ、可愛がっていた女の子が居なくなったために病気になって倒れた中年女性の姿が見えると言われ、これは大変とばかりに農場への帰途につく。だがこの時、どこからともなく巨大な竜巻が暗黒の雲をともなって押し寄せていた。ドロシーが家に辿り着いたころには、強風がすっぽりと農場を包み込み、一同はみな地下の防風壕に避難した後だった。ドロシーは、おじさんとおばさんの名を呼びながら家に駆け込み、ベッドにうつぶせになっていると、突風に吹き飛ばされた窓が彼女の頭を直撃した。
しばらくして気づいたときには、ドロシーは大竜巻に飲み込まれ、家もろとも大空へと巻き上げられていた。窓の外に目をやると、鶏小屋や家畜にまじってミス・ガルチが魔女さながらに自転車をこぎながら楽しげに空を飛んでいる。どうしたことかと思っているうちに風が弱まり、激しい勢いで落下しはじめるや、轟音とともに着地した。
不安な面持ちでトトを抱きしめ、家から外へ踏み出したドロシーは一瞬自分の目を疑うのだった。あたり一面に咲き誇る鮮やかな色彩の花や樹木はこの世のものとは思えないほど美しい。そうだ、きっとここは虹のかなたの夢の国に違いない。言葉にはとうてい言い表せないその美しさに圧倒されて、ただ茫然と立ちつくす彼女の前に、大きなシャボン玉が飛んきた。その中から美しい魔女、グリンダが現れ、ここはオズの国のマンチキンという小人の町だと教えてくれた。しかもドロシーの家がこの町の住民たちを苦しめていた東の魔女を下敷きにして押しつぶしたので、彼女は彼らの恩人だという。茂みから次々とその小さな姿を現し、広場に集まってくるマンチキンたちによってドロシーは大歓迎を受けるのだった。
そのとき、殺された東の魔女の妹でミス・ガルチそっくりの西の魔女が怪しげな煙とともに現れ、姉の敵とばかりにドロシーへどす黒い怒りの炎を向けはじめた。ドロシーの身を心配したグリンダは東の魔女の履いていた底知れぬ魔力をもったルビーの靴を彼女に履かせると、早く故郷へ帰るようにと勧める。もちろん、ドロシーはカンザスへ帰りたいのだが、その方法が分からない。来た道を戻って行くには、エメラルドの都に住んでいるオズの魔法使いの力を借りなければ不可能なのだ。
マンチキンたちに見送られ、黄色いレンガ道に沿って進んでいたドロシーと愛犬トトは、途中で出会ったハンクそっくりの脳みそが欲しいというカカシと、ヒッコリーに瓜二つの鍛冶屋が心を入れるのを忘れたブリキ男、それにジークによく似た臆病なライオンを仲間に加えてエメラルドの都へと向かって行った。途中何度か西の魔女の妨害に遭遇しながらも、互いに励まし合い、助け合ってなんとかオズの城に辿り着き、魔法使いに会うこともできた。しかし、魔法使いの口から飛び出したのは彼らにとっては予想外の言葉だった。それぞれの望みを叶えて欲しいなら、西の魔女の魔法のほうきを奪ってこい、と彼は言う。
不可能とも思えるこの難題に頭を抱える彼らではあったが、自分たちの目的を達成するためとなれば仕方がない。重い足取りで西の魔女の城へと向かう途中、薄気味悪いお化けの森にさしかかる。そこで、彼らは魔女の手下の空飛ぶ猿軍団に襲われて、ドロシーとトトが連れ去られてしまうのだった・・・。
この映画の原作は、アメリカの有名な童話作家フランク・ボーム(Lyman Frank Baum, 1856-1919)の世界的に有名な『オズの魔法使』(The
Wonderful Wizard of Oz, 1900)である。主役には、何人もの有名女優を抑え、当時若干16歳だったジュディー・ガーランド(Judy
Garland, 1922-69)が、その見事な歌唱力とみずみずしい感性のゆえに抜擢された。監督には、ヴィクター・フレミング(Victor
Fleming, 1883-1949)の他に、リチャード・ソープ(Richard Thorp,1896-1991)、ジョージ・キューカー(George
Cukor,1899-1983 )、キング・ヴィドア(King Vidor,1894-1982)といった3人の名匠が惜しげもなく投入され、13人もの脚本家を雇って制作された作品である。それだけに「『オズの魔法使』は優れた映画だ。それは格調高く、後世に残るテクニカラーの作品であるばかりでなく、非常に人間的で心温まる、見る者の心を激しく揺り動かす映画でもある」とのジェームズ・クロウの言葉通り、単なるファンタジーと冒険の物語ではない。現実の世界を白黒で、夢の世界を鮮明なカラーで描くといった、至る所に繊細にして斬新な工夫を凝らし、登場人物たちが象徴する明晰な頭脳、優しい心、剛胆なる勇気、そして互いに助け合うことの大切さをメッセージとして折り込んだ、根底に暖かいヒューマニズムが流れる1939年を代表する映画の名作である。
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曽根田 憲三(相模女子大学教授) |
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■この映画の英語について
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あなたは『オズの魔法使』の中で誰が一番好きですか。愛らしいドロシー、良い魔女のグリンダ、頭にわらの詰まったかかし、心が空っぽのブリキ男、それとも臆病なライオン。オズの魔法使いや悪い西の魔女はどうですか。実は『オズの魔法使』は子どものためだけの映画ではありません。子どもの心を失わない人に捧げられた映画なのです。1956年にテレビ放映が始まって以来毎年番組が始まると、大人も子供もティーンエージャーも皆家のテレビの前に集まって見る、それが『オズの魔法使』なのです(少なくとも私のいた中西部ではそうでした)。その人気の秘密がこのテキストの中にあります。たとえば「虹を超えて」マンチキンの国に着いた時のドロシーのセリフは何でしょうか。グリンダがドロシーに始めて問いかけた言葉は?「脳みそがあればなあ」に続くかかしの望みは? 卒業証書をもらったかかしが暗唱する公式は? 熱気球に取り残されたドロシーがグリンダに助けを求めた時の答は? そしてドロシーがオズの国で学んだことは何ですか。また私の好きな言葉は
Who would have thought a good little girl like you could destroy
my beautiful wickedness? ですが、誰のセリフでしょうか。
このシナリオには言葉遊びもたくさん仕掛けられています。 現実と夢のパラレルワールドのおもしろさ、マンチキンの国で検死官が悪い東の魔女について
And she's not only merely dead/she's really most sincerely dead.
と報告するとぼけ方、南国育ちのライオンが I'd be as brave as a blizzard. と歌うナンセンス、"…hippopotamus/…bottomamus(本来はbottom)"と韻のための無茶苦茶な造語を平気で使うライオンの擬似英雄詩(mock-heroic
poem)、「話は全く別」という表現 a horse of a different color は 色の変わる馬に、 ブリキ男へのオズの罵詈雑言は
You clinking, clanking, clattering collection of caliginous junk!
の音遊びに、ペテン師(humbug)オズがかかしに授与する Th.D.(Ph.D.のもじり)等々祝祭的パロディあり、There
is no place like home. や Follow the Yellow Brick Road. 等の名言もありのファンタジーワールドです。この映画の英語はアメリカ人が小さい頃から聞いてきたものであり、日常使える表現が多くまた語法・成句なども辞書に載っている形でそのままセリフに出ているので、英語は苦手だけれど何か始めてみたいという方が学ぶのに適したテキストです。文法的には中学3年から高校低学年のレベルです。仮定法も含め、もう一度英語にトライという方にお薦めします。そういう方には、エメラルドの都へ行く時にドロシーにグリンダが送った言葉を送ります。
It's always best to start at the beginning.(とにかく始めることが大切です)やめてしまいたくなった方には悪い魔女の言葉をどうぞ。Going
so soon? I wouldn't hear of it.(もう行ってしまうのかい。そんな事はこのわたしが許さないよ) |
及川 一美(慶應義塾大学講師) |
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■目次
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1. |
Home In Kanzas |
カンザスの家 |
……………… |
8 |
2. |
A Twister |
竜巻 |
……………… |
24 |
3. |
Over The Rainbow |
虹の彼方へ |
……………… |
36 |
4. |
See The Wizard |
魔法使いに会おう |
……………… |
56 |
5. |
The Cowardly Lion |
臆病なライオン |
……………… |
76 |
6. |
Emerald City |
エメラルドの都 |
……………… |
92 |
7. |
The Wizard |
魔法使い |
……………… |
110 |
8. |
The Haunted Forest |
お化けの森 |
……………… |
124 |
9. |
The Promises |
約束 |
……………… |
136 |
10. |
No Place Like Home |
家ほどよいところはない |
……………… |
150 |
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■コラム
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Judy Garland |
……………… |
22 |
『オズの魔法使』の原作 |
……………… |
34 |
監督 Victor Fleming |
……………… |
54 |
プレミア・ショーとボーム夫人 |
……………… |
134 |
原作者 Lyman Frank Baum |
……………… |
158 |
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■リスニング難易度
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評価項目
| 易しい(1) → 難しい(5)
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・会話スピード
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・発音の明瞭さ
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・アメリカ訛
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・外国訛
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・語彙
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・専門用語
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・ジョーク
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・スラング
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・文法
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合 計 |
15点 |
( 16以下 = Beginner, 17-24 = Intermediate, 25-34 =
Advanced, 35以上 = Professional )
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