■この映画のストーリー
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舞台は摩天楼が聳え立つ大都会ニューヨークの一角にあるスラム街ウエスト・サイド。マンハッタン島を捉えたヘリコプターからのカメラがスルスルと降下してこの地区を大写しで映し出したかと思うと、静寂の中から指を打ち鳴らすパチッ、パチッというシャープな音と共に一群の若者達が登場する。彼らはニューヨーク生まれのリフをボスとする白人系移民の子供達ジェット団で、間もなく登場してくるプエルトリコ生まれのベルナルド率いるシャーク団と小さなシマを奪い合って激しく対立している。彼らにとってこうした問題の解決法はただ一つ、果たし合いだ。次々とアメリカへ入り込み、日増しに増殖し、肥大化していくシャーク団に苛立ちを覚えたジェット団は遂に彼らに果たし状を叩きつける。中立地帯の体育館で双方がダンスの競技を競うのだ。リフは、今ではすっかり足を洗って近くのキャンディーストアで働いている、親友のトニーを説得して出掛けることにした。一方、ベルナルドは腹心のチノと結婚させるために一ヵ月前にアメリカへ呼び寄せたばかりの妹マリアを伴って会場にやって来る。だが、何という運命の悪戯だろうか。ジェット団、シャーク団の若者たちが持て余すエネルギーを発散させながら激しく体を揺すっていた時、会場に姿を現したトニーと一人佇んでいたマリアの視線が合った。その瞬間、二人はまるで目に見えぬ不思議な力で引きつけられるかのように、どちらからともなく近づくと、音楽に合わせて静かにステップを踏み始める。それは甘く、だが限りなく悲しい恋の始まりであり、誰もが想像だにしなかった悲劇の序曲でもあったのだ…
激しく燃える恋の炎、社会に対する失望、やり場の無い怒りと憎しみ、そして暴走する彼らのエネルギーを強烈なジャズ調のダンスリズムとロマンティックな歌に託して綴ったこの大作映画は、ブロードウェイのウインターガーデン劇場で1957年9月26日から二年間、通算734回にわたって上演され観客を魅了し続けたミュージカル舞台劇が原作である。ブロードウェイで振付師としての名声を欲しいままにしていたジェローム・ロビンスが演劇学校の友人とシェークスピアの『ロミオとジュリエット』について語り合っていた時に、この古典の恋愛物語を現代ドラマに置き換えることを思いついたのだった。映画化に際しては、人間の真の姿と社会に対する鋭い洞察、鋭敏にして繊細なドキュメンタリータッチのリアリズムでアメリカ映画界を代表する監督として衆目を集めていたロバート・ワイズが制作、監督にあたり、舞台を演出したロビンスを共同監督に迎えて撮影開始。物語の背景はヴェローナからニューヨークの薄暗いビルとビルの谷間に、モンタギュー家とキャプレット家の対立はニューヨークっ子とプエルトリコ人たちとの軋轢に、そしてロミオとジュリエットのバルコニーでの甘い愛の語らいは今にも崩れ落ちそうなビルの非常階段に変わり、見事な現代版『ロミオとジュリエット』が誕生した。とはいえこの感涙を誘う愛の物語は、本質的には現代のアメリカ社会が抱える深刻な人種問題であり、錯綜したサラダ・ボールの中から聞こえてくる悲鳴にも似た悲しい苦悩の叫びと言えるだろう。
1961年度のアカデミー授賞式に於いてこの作品は、アカデミー史上初めてワイズ、ロビンス二人の監督に監督賞をもたらしたばかりか、作品賞、男優助演賞(ジョージ・チャキリス)、女優助演賞(リタ・モレノ)、編集賞、撮影賞、美術賞、衣装デザイン賞、作曲賞、音楽賞の10部門でオスカーを獲得し、更には、振付の特別賞まで手中に収めて、その圧倒的な力を世界に誇示したのであった。
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曽根田 憲三 (相模女子大学教授) |
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■この映画の英語について
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イタリア系を中心とする Jet 団と、プエルトリコ系を中心とする Shark 団の話す英語は、どれも標準英語とは異なる。Shark
団は Hispanic なので、セリフの中に所々スペイン語が入り込むだけでなく、英語の単語を発音する時でもスペイン語の影響で r
が巻き舌になる。また Jet 団の仲間は world を woild、hurts を hoits、dirty を doity のように、下線部を二重母音で発音する。これはニューヨークおよび南部にみられる英語発音の一種である。また
Jet 団の発音を注意して聞いていると、the = da、that = dat、they = dey のように、また一方 nothing
の発音が noffing のようになっている時がある。これらの現象はかつて黒人英語の特色とされていたが、現在ではアメリカの特定社会で話される英語の特色と考えた方がよい。文法面でも
Jet 団の英語が面白い。冒頭近くの He (= Tony) don't belong no more. や、その少し後の Riff
の発言 I never asked nothing from nobody. をみると、否定語の使い方が標準とは異なることがわかる。さらに、上記の
He don't にみられる動詞の三人称単数現在形を複数形で代用するくせ、また逆に be 動詞は全て単数形にして You was
never my age. などと言うくせ、さらには Where the devil are them (= they) Sharks?
などにみられる格の交替と二重主語の現象も、一般に黒人英語の特色として説明されている。いわゆる「黒人英語」の話し手は決して黒人だけではないことをこれらの実例から知っておきたい。
上記に示した「言葉のくせ」に注意して映画を見直そう。Tony が店で Doc と2人きりになった時に自分が恋をしたことを告げて帰る場面で、
Tony : It's a girl. A lady. Buenas noches, senor. Doc : Buenas
noches? So that's why you made it a fair fight. のように Tony がスペイン語で挨拶したため、Doc
は Tony の相手が Shark 団と密接な関係にあることを知って今後のことを深く心配するのである。また、先に挙げた Jet
団に「くせ」の多くは非文法的であるが、彼らは標準英語を話せないわけではない。知っていてなお、自分たちの「くせ」を保って仲間意識を強めている。従って(映画の半ばで)自分たちの敵の口真似をする時は
This child does not need to have his head shrunk at all.と言い、doを使わないことによって相手(ここでは精神科医)を痛烈に皮肉っている。以上2つは「言葉のくせ」を通して自分が仲間(one
of us)か、敵(one of them)かを的確に表現した例と言える。 最後にミュージカル自体を楽しんでみよう。リズム感にあふれた曲は今でも新鮮である。英文学に興味のある方は、英詩を読む時にこれを利用して、ぜひリズムや韻に注意して音読していただきたい。また純愛を歌いあげる
"Tonight" を思い出しながら、この映画のモデルである Shakespeare の Romeo and Juliet を翻訳でもよいから眺めていただきたい。相乗効果は保証する。
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吉田 雅之 (神奈川県立外語短期大学専任講師) |
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■目次
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1. |
ウエストサイド |
The West Side |
……………… |
7 |
2. |
ジェット団 |
Jets |
……………… |
15 |
3. |
トニーとマリア |
Tony and Maria |
……………… |
27 |
4. |
アメリカ |
America |
……………… |
39 |
5. |
不良達の集い |
Juvenile Delinquents |
……………… |
53 |
6. |
喧嘩会議 |
A War Council |
……………… |
63 |
7. |
ドレスと夢 |
Dresses and Dreams |
……………… |
73 |
8. |
決闘 |
The Rumble |
……………… |
87 |
9. |
クール |
Cool |
……………… |
97 |
10. |
愛は永遠に |
Te Adoro |
……………… |
111 |
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■コラム
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ニューヨーク、ロケ裏話 |
……………… |
52 |
『ウエスト・サイド物語』とバーンスタイン |
……………… |
72 |
アメリカのプエルトリコ人 |
……………… |
110 |
ジョージ・チャキリスとナタリー・ウッド |
……………… |
120 |
敵意と怒りの表現 |
……………… |
121 |
911警察の定番表現 |
……………… |
122 |
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■リスニング難易度
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評価項目
| 易しい → 難しい
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・会話スピード
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・発音の明瞭さ
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・アメリカ訛
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・外国訛
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・語彙
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・専門用語
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・ジョーク
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・スラング
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・文法
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合 計 |
17点 |
( 16以下 = Beginner, 17-24 = Intermediate, 25-34 =
Advanced, 35以上 = Professional )
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